第31話
馬車に揺らされ二日目の朝。無事冒険者学校に着く。
冒険者学校はとても広く、寮まで向かう途中道を在校生に聞いては迷子を何度も繰り返し無駄に疲れてしまう。
自分の部屋に着くと荷物の整理を始める。
元いた俺の部屋より断然広く、ベットは二段ベットだ。
どうやら相部屋らしく今後もう一人部屋に誰かが来るらしい。
ある程度荷物の整理を終わらせ俺は服を着替える。体操服の様なものだろうか。動きやすい伸縮性のある服だ。ちょっと寒いので上着も羽織っておく。
今から冒険者志望の子は特殊な試験があるらしく俺はそれを受けなければならない。
俺が冒険者志望だって何日か前に母から聞いた時は開いた口が塞がらなかった。冒険者なんて絶対になりたくないのに。
着替えが終わり部屋を出て道行く在校生に試験場までの道を聞きながら試験場に向かう。
試験場には既に人集りができていた。
とりあえず俺も人集りの一部になっておく。
すると突然チョンチョンと背中を指先だろうか?で突かれる。後ろを振り向くとアリスがいた。
「おぉアリス一、四日ぶり」
俺はよっ!と手を上げる。
アリスもよっ!と恥ずかしそうに俺のノリに合わせてくれる。
「ナツ君なかなか来るのが遅いから冒険者志望じゃないのかと心配しました」
「今朝着いたばっかで。心配かけてごめんよ。それに俺の為にわざわざ冒険者志望にしてくれたんだよな、アリスは。ありがとね」
「いえ…」と恥ずかしそうに伏し目がになる。
アリス、律儀に俺を守るを遂行しようとしてくれている。
「にしても試験って何が行われるんだろうな」
「私も分からないです」
俺は「ふーん」と気のない返事をし、周りにいる冒険者志望の子達を見る。人によって剣を持ったり杖を持ったり、俺と同じで学校指定の体操服の子もいれば、魔術師のようなローブを着ている人がいたり、冒険者らしい身軽な格好している者もいる。
いろんな人がいるなぁとキョロキョロしているとワードがいることに気がつく。スラーと身長が高くスレンダーなモデル体型だ。会ってない間に随分背が伸びた様だ。
俺とは違い手甲に胸甲としっかりと戦う為の装い。腰には木剣を携えている。俺は剣なんて持ってないけど大丈夫だろうか。
真っ直ぐな瞳で前をずっと見据えてる為俺に気づくことは無さそうだ。
「ワードさんです」
俺の視線の先にいる人物に気づきアリスが話しかけてくる。
「うんワードさんだね」
「話しかけなくても?」
「うん。嫌われてるしわざわざ話しかけたりはしないかな」
「そ、そうなんだ。その、ナツ君はワードさんの事どう思ってますか?」
アリスが若干俯いて聞いてくる。その顔をほんのり赤い。
どうと言われても何故か胸がドキドキするが別に好きってわけでもないんだよな。なんならあんまり関わりたくないまである。彼女は主人公の親友らしいからな。もう親友なのかな?それとも今から親友になっていくのかな?
「ただの政略結婚の相手としか思ってないよ。できれば結婚したくないまである」
俺程度の男に結婚相手を選ぶ権利なんてないだろうが。
アリスは焦った様なはたまた安堵した様なよく分かりづらい表情で「そ、そっか」と言った。その後続けて「私も政略結婚は嫌です」と言った。兄と反りが合わないのだろうか?
すると急に周辺の新入生達がざわめき出す。
「どうしたんだろ急に」
一体何が何やらちんぷんかんぷんの俺にアリスが「殿下がお見えになったんです」と教えてくれる。
どれどれ殿下の姿でも拝見しましょうかね、と俺も新入生が注目している方を見る。
気品のあるオーラを纏った男が従者と思われる人を連れて歩いてくる。シュッとした金髪の髪型に整った凛々しい顔立ち、鍛えあげられた肉体と高い身長、なるほどこれは乙女ゲーの攻略対象キャラだなと一目で分かってしまう。
元の乙女ゲーを知らない俺がゲームストーリーの始まりを感じる。この新入生の中にはもう既に主人公がいるのかもしれない。
俺が殿下をジッと見ていると殿下が俺の視線に気づき目が合う。
もしかしたら知り合いかもしれない。
俺はよっ!と手を上げた。そしたら殿下は嫌なものでも見てしまったという顔をしてすぐに目を逸らした。どうやら知り合いっぽい。
「なんか嫌われてるや」
「何かしたんですか?」
アリスが心配し聞いてくれる。
「全然記憶にないや」
「何かしてそうです」
本当に記憶にないんだけどなぁ。
そこへ教師と思われる人達が三人やってくる。
「静かに皆さん静かに。今から冒険者適正試験を行う。この試験で酷い評価をもらったからと言って退学なんてことはないですが、君たちの将来を大きく左右するものではあります。ですので全力で取り組んでください。では魔法が使えるものは私と共に来て下さい。剣術だけという方はこのままここにいて下さい」
小太りの髭を蓄えた爺さんが歩き出し、何人かの新入生もその爺さんの後を追って歩き出す。
「私、行きますね。ナツ君も頑張って」
可愛らしく手を振るとアリスは行ってしまう。
俺も魔法を使えるらしいがついていった方がいいのだろうか。でもいままで一度も使った事ないし、発動出来るかも分からない。これまで一心不乱に剣を振ってきたのだここに留まろうじゃないか。
わずかに七人がこの場にとどまる。その内の一人にワードもいる。
人が少なくなったからかワードも俺の存在に気づきヅカヅカと近づいてくる。
「剣なんて持った事ない癖にここに居るのは不快です。向こうへ行ってください」
なんか俺に対する当たりがさらに強くなってる。
「実は俺も剣を握ってたりなんかして」
「試験用の剣も用意してないのによくそんな事が言えますね」
やっぱ剣は持参か。これはやっちまった。単純な俺の落ち度だ。言い訳のしようがない。
「貸せる時でいいから剣を貸してくれないか」
その瞬間ワードがまるでビンタでもするかの様に手を振り上げる。しかし思いとどまったのか振り上げた手を下ろす。
「貸すわけないでしょう。婚約者だからと言うことを聞くと思ったら大間違いです。浮ついた気持ちでこの学校に入ったあなたとは違って私は真剣なんです。私は人生を賭けてるんです。必要な時は私から接触します。それ以外は近づかないでください」
ワードは淡々と言った。
この三年間一度しか会ってないし特に何かしたわけでも無いのに更に嫌われてるなぁ。冒険者として名でも上げて俺との婚約を解消しようとしてるんだろうか。
「軽率だったよごめん」
そう言って俺は魔法試験の方に向かった。空気的に向かわざるをえなかった。
俺が唯一撃てる魔法『ファイア』をトラウマ乗り越え撃ってみようじゃないか。
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