第30話
「今日も頑張っているわね。お父様が呼んでいるわ」
訓練所にて俺が素振りをしている所、母が来てそう告げた。
リア達が冒険者学校に行って約三年ついにこの時が来たんだ。俺が冒険者学校に行く時が。
俺が二つ返事で母のもとまで向かうと「では行きましょうか」と母は父の部屋まで俺を先導してくれた。
その途中
「あなたも行ってしまうのね。寂しいわ」
母に話しかけられる。
「いつでも帰ってくるよ」
俺がそう返事すると
「帰ってきてくれるのなら嬉しいわ」
と言った。
それ以降父の部屋に着くまで俺と母は口を閉ざしたままだった。
父の部屋というより執務室というべきだろうか。で、父と対面する。
父は書類を見ており片手間といった感じで俺に話しかけてくる。
「お前のような出来損ないの息子を持った私の気持ちがわかるか」
あの日、異世界に来た日以来の父との会話。きっと父は俺が素振りをしていることすら知らないのだろう。
「父親としての不甲斐なさですかね」
ダンっと父は机を叩く。
俺が何か言うと思ってなかったのかお怒りのようだ。
「ふざけているのか」
「至極真面目です」
「貴様ふざけた態度をとりおって。後悔だ!後悔。貴様がこの家に生を享けたのを後悔しておるのだ」
ヤーナツは日本とは違う異世界にしかも貴族に生まれそして育った。俺が知らない全く別の価値基準の世界。親が我が子を無償で愛するなんてのは甘ったれた考えなんだろう。
それは理解できているがなんとも気持ちがモヤモヤしてしまう。俺が向こうの親に底なしの愛を受けていたからだろう。俺は幸せものだった。
だからだろうか、この息子に愛情の欠片も無い父を見返してやりたかった。ヤーナツのためにも。そしてこの父の為にも。
いや違う。誰かの為とか気取ってるが多分俺の我儘だ。
「俺は感謝してますよ。だから親孝行をしようと思います。いつか立派な姿をお見せします。父が『何故こんな立派な息子を蔑んでいたのだ』と後悔する程、立派な姿を」
「それだけ大口を叩いたのだ。マスタームーン学園を優秀な成績を収めて卒業してみせろ。もしできなかったらサンザンベルの名を二度と名乗るな。よいな!」
マスタームーン学園とはリア達も通ってる冒険者学校の事だろう。
「分かったよ」と返事をし、俺は父の部屋から退室した。
父の部屋の前の廊下では母が待っていた。
「どうだった?」
母は中での出来事が気になるみたいだ。
「相変わらず凄い嫌われようだよ。酷い事言われちゃった」
「そう。ならお父様を見返せるようがんばらなくてはね」
その言葉を聞いた瞬間思わず笑声が漏れてしまう。
「俺もそう思ってた所だよ。応援しててよ。母さん」
「ええ!頑張りなさい」
母はグッと両手でガッツポーズを作った。なんだか愛を感じる。
その後俺と母は他愛もない話をした。
ラウドにもう少し頻繁に帰ってくるよう伝えてくれだとか、リアに偶には顔を見せるよう伝えてくれだとか、怪我はするなとか、ワードがいるのだから女遊びはしたらダメとか、本当にそんな他愛もない話をした。
その日の夜。俺は父に大口を叩いた事を激しく後悔した。
どうやって見返すつもりだ?まさか冒険者にでもなるつもりか?死なない事を一つの目標としているこの俺が?あり得ない。絶対に無い。
秀でた能力もない俺が勝算も無いのにあんな事言うなんて、馬鹿俺の馬鹿。本当に馬鹿。
俺って頭に血が上りやすいんだなぁ。
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