第29話
「なんだお前アリスの事好きなのかよ」
ウツツからの予想外な発言。
「いやそう言う訳じゃないんだけど、なんとなくみたいな?だってよく考えたらあの子俺より年下だよ」
ぽりぽりと頬掻きながら答える。
年下と言っても現実世界の俺の年齢と比べて、て事だが。
「まぁなんでもいい。早く俺の体をボコせ」
「よし!いっちょあの馬鹿でけーおっぱいを引っ叩いてやるか」
何かを誤魔化すように大声で言った。
にしても怖いな。魔法を撃たれたら防ぐ手段なんて無い。
こう言う戦い事から身を守ってもらう為にアリスに接触したのに何をやってるんだか俺は。
一歩ずつ近づく。
ある一定の距離まで近づいた途端急にひどい頭痛に襲われ鼻血が垂れて来る。
俺はすぐさま距離を取った。
「ウツツ無理だ近づけねー。死んじまうよ」
「いやお前ならいける筈だ」
「せめて剣をくれないか。そしたら遠距離から攻撃できる」
「遠距離攻撃なんざいらねー。俺の首を切った時を思い出せ。あの時お前は混沌魔法の中、倒れる事なく俺の背後に忍び寄ったじゃねぇか」
今ウツツの体はあの時の混沌魔法という奴を発動してるみたいだ。
当時の事を思い出せって言われても無我夢中だった事しか覚えてない。
「無理だ。絶対死ぬ」
「じゃあアリスを頼るだけだ」
「悪党め。これが叶ったら一生俺たちに構うなよ」
やってやる、と俺は一気に走り出した。
すぐに膝から崩れ落ち咳き込みながら吐血する。
やべー死ぬ。今すぐ引き返してー。
なんで俺がウツツの為に命をかけなくちゃいけないんだ。こんな事普通なら絶対しないのに。するはずが無いのに。
こんなとこで死んでたまるか。こんなもん大体、気合いや根性でどうにかなるんだよ。少なくとも俺は漫画のキャラからそう教わってきた。
低い唸り声を上げながら立ち上がる。心なしかさっきより体調が楽だ。
「目の前にいるぞ!」
突然ウツツが叫ぶ。
顔を上げると目の前にウツツの体がいた。
やばい死ぬ。
ウツツの体の手が迫って来る。恐怖で身が竦む俺の顔をペトペトと確認するように触る。
ひとしきり触るとガバッと俺に抱きついてきた。あまりの勢いに尻餅をついてしまう。
そのままスリスリと体を擦り寄せぎゅーっと豊満な胸を俺に押し当てる。
その瞬間俺の中の恐怖がどこかに消えてしまう。
どこへきえてしまったのだ?まるでスポンジの如くおっぱいに吸われてしまったのでもいうのか。恐るべしおっぱいスポンジ。
その後もスリスリ、ギュッギュッとまるで俺の体を味わうかのように強く密着してくる。
どんどんと俺の中の何かが洗い流されてくように消えていく。日頃の苦悩、疲れ、そして理性。そして逆流するかのように溢れ出てくる欲望。
今すぐ抱きしめたい。
欲望のままバッと手を広げ抱きしめようとしたその瞬間
あ、首の断面見えた。
一言で言うならグロテスクだ。俺の中の溢れ出す欲望が萎えていく…かと思われたが俺の欲望は挫けなかった。
彼女を強く抱きしめる。そんな俺に答えるかのように彼女も強く抱きしめ返してくれる。
これもう相思相愛じゃないか。
彼女は臭かったがそれすらも俺の欲望を増幅させる材料になっていた。
「お前俺の体と何してんだよ!マジで何かしてみろぜってーぶち殺すからな」
ウツツが叫ぶ。
「ウツツ止めてくれるな。俺と彼女は愛し合っている」
「いいからこっち来やがれ!これは絶好のチャンスだ」
「彼女をどうする気だ」
「ブラックスワンを発動させんだよ。もし発動してくれねーようなら回復魔法を使える奴を頼る。頼りたくはねぇがな」
ブラックスワンとは確かウツツが使える回復魔法だったよな。
きっと彼女も頭部の帰りを待っているだろう。俺は彼女を抱きしめるのをやめ肩に手を置いた。
「今から君をあるべき姿に戻すよ」
最後に別れを惜しむように優しく抱きしめた。
それじゃあ行こうかと立ち上がろうとしたところ彼女が俺のズボンをパンツごと脱がせようとする。今ズボンを脱がされるのはまずいが、俺は快く受け入れた。
彼女のズボンはビリビリに破け丸出しだからな、俺ので良ければ使ってくれ。彼女が恥をかくぐらいなら俺が恥をかこう。
そのまま俺はズボンとパンツを脱がされ丸出しになってしまう。そして彼女は俺のズボンとパンツをポイッと捨ててしまう。
あれ?着ないの?
急に彼女は俺を押し倒し覆い被さってくる。
これはアレだなんちゃらプレスだ。
嫌な予感がする。寒気が走り鳥肌が立つ。必死に彼女のがっちりホールドから逃げようとするが力が強すぎて無理だ。
「ウツツ助けてくれ!この子俺の尻を狙ってる気がする!このままじゃやばい!マジでやばい」
冷や汗がダラダラと湧き出てくる。
「てめーふざけんな!なんとかしてこっち来やがれ。初めてがお前なんざ、ぜってーやだぞ」
再度彼女を退かそうと試みるがやっぱり無理だ。
「無理だ彼女の力が強すぎてどうにもできねー。マジでやられちまう。助けてくれーウツツ」
ウツツは舌打ちをつくと転移魔法ルードラで俺の真隣まで来てくれる。
「早く俺に触れやがれ!」
俺は必死に手を伸ばしウツツの側頭部に触れた。ウツツが「ルードラ」と唱えると景色は一変し自分の部屋に戻ってくる。
ウツツの体も一緒に連れてきた、と言うことは無さそうだ。
「酷い目に遭うとこだった」
ふぅーと安堵の息を吐き額を拭う。
「今日は終わりだな。また後日行くぞ。俺のフィジカルに負けないぐらい鍛えておけよ」
「もう行きたくねー」
帰る雰囲気を醸し出していたウツツが「ちょっと待てよ」と言いある事を確認してくる。
「お前ジバシリを撃てるようになったのか?」
「それはいつか知る時が来るだろう。それまでの楽しみに取っとけ馬鹿野郎」
「まあいい。俺はもう帰る」
そういうと今度こそウツツは帰っていった。
ここからおおよそ二年間俺とウツツは、ウツツの体奪還チャレンジを何度か試みたが全て失敗に終わった。
その際分かったことが、彼女は顔が戻ってくるのを嫌がってることと、俺の尻を狙ってるということだ。どうやら俺以外の人が近づくと全力で攻撃するらしいが俺だけは何故か攻撃しないみたいだ。ただ混沌魔法は常時発動中らしい。
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