第26話

 リア達が出て行ってはや三ヶ月。

 ある日筋トレをしていると俺は最強の筋トレ方法を考案してしまった。

 そうそれはおチソチソ腕立てとおチソチソ上体起こしだ。

 説明しよう。

 おチソチソ腕立てとは、顎とチソチソの先が同時に地面につけばちょうどいい塩梅の腕立てになるのではとヤーナツこと俺が編み出した最強の筋トレ法である。

 そしておチソチソ上体起こしとは、チソチソを腹に寝かせそこからチソチソをピクリとも動かさず寝かせた状態のまま上体を起こすと言うものだ。タマタマが縮み上がってると少しやりにくい。

 この筋トレ法、実は最大の欠点がある。それは全裸にならなければならない事だ。

 ある日の夜。俺がおチソチソ筋トレをしている時のことだった。

 フッフッと全裸でチソチソ筋トレをしていると俺のシックスパックを沿うように汗が流れ、まるで自前の側溝そっこうだ筋肉側溝だと喜んでいたその時、突然アリスがベットの上に現れた。

 一瞬二人して見つめ合いそして


「きゃーーーーーー」


「ぎゃぁぁあぁぁぁ」


 二人して叫び合う。


「ぅぅ…なんで裸…タルト持ってて目を隠せません」


 そう言って俺の裸をガン見する。手には六等分ぐらいのいちごタルトが乗った平皿を持っていた。

 目を瞑ればいいじゃんそう思うのは俺だけだろうか?

 アリスの肌がどんどん変色し髪が変質していく。


「いや俺自室では全裸派なんだ」


「今まで全裸なんてなかったです。あ!誰か来ます」


 アリスが人の気配を察知する。

 リアがいない今俺の部屋に好き好んでくる奴なんているのか。

 いや、万が一に備えるべきだ。


「アリス、ルードラだ」


「はい。ルードラ」


 アリスは消え、そして俺の膝の上に現れる。

 え?なんで。

 とんでもなく至近距離。目と目が合う。

 長い前髪の隙間から見える紅い瞳が綺麗だ。

 いやいやそんな事考えてる暇はない。


「アリスもう一発ルードラだ!」


 あえて俺の元に転移したことは聞くまい。


「ぅ…あ…」


 アリスは俺を見つめ硬直している。

 年頃の女の子だ。全裸の男と急接近、パニックになるのも分かるよ。しかし状況は一刻を争う。

 俺はアリスの肩を掴み「アリス!早く」と言った。

 アリスは我に返ったように「ルードラ」と唱えたが何も起こらない。

 いよいよピンチ。

 俺は火事場の馬鹿力でアリスをベットに放り、掛け布団を被せる。

 その瞬間ノックもなく扉が開く。


「何の悲鳴?あら、あなたなんで裸なの?」


 姿を見せたのは母だ。

 布団がかなり盛り上がっている。これじゃ人がいるのは明白だ。

 どうにかして母の視線を逸らすしかない。


「母よ。我が聖剣を見よ!」


 バッと体を大文字にし、聖剣を見せつける。

 聖剣とは言わずもがなアレだ。


「フッ。何が聖剣ですか。毛も生えてない子供のくせに。それよりも悲鳴…布団の中に何かいるわ」


 やばい。


「とくと見よ。我が聖剣の妙技せんぷーーじん!!」


 腰を動かしブンブンブンと聖剣を扇風機のように回す。

 よし母もしっかりと我が妙技を見ている。


「はー器用ねー。男の子はそんな事もできるのね」


「我が聖剣の力とくと見たか」


 ゼェゼェと息をする。結構疲れるなこれ。


「でもあなた聖剣を見せたい割には鞘に収まったままではありませんか。それよりも布団の…」


 やばい。


「母よ!それはセンシティブな問題でござる。しかーしここはあえて触れて行くでござる。我が聖剣はまだ私が未熟ゆえ未だ真の姿を見せた事がないでござる。いずれ私が真の男になった時、自ずと聖剣も我に応えてくれよう。母よ私と一緒に願ってくれ。これは本当にセンシティブな問題なんだ。我が聖剣が覚醒することを願ってくれ」


 ついつい本心が出てしまう。


「そんなことよりも布団が赤く光っているわ。誰かいるの?」


「そんなことって…。ひどいよ。泣いちゃうよ。そんなに俺のもっこりより布団のもっこりが気になるの?」


 顔を抑え泣くフリをしつつチラリと布団の方を見る。

 確かに布団は赤く光っている。アリスの仕業だろう。

 よく見てみればベットと掛け布団に隙間ができており、キラキラと紅い瞳をアリスが覗かせていた。

 あのむっつり娘しっかりと俺のもっこりを見てやがる。


「一体この光はなんなの?」


 やばい母が俺の事を無視して布団に近づこうとしてる。こうなったら破れかぶれだ。


「あ!第三勢力のもっこりだ」


 ビシッとあらぬ方向を指差すが、母は全く意に介さない。これは詰んだか。

 母が布団をめくる。

 しかしそこには誰もおらず母が「おかしいわねー」と呟いた。

 どうやらギリギリの所でルードラを使って転移したようだ。

 後は俺が誤魔化そう。


「実は母の言ってる赤く光ってると言う奴、俺には何のことかさっぱりだった。母は幻覚を見てたんだよ。それどころかそもそも布団はもっこりなんかしてなかった。なんであんなに布団を気にしてたんだ?」


 これは知らんぷりがすぎるだろうか?

 母は「おかしいわねー」と何度も呟き布団の中を隅々まで調べると、流石に納得言った様子で俺の方を見た。


「母の気のせ──────」


 そこで母は言葉を詰まらせガタガタと震えながら俺の後ろを指で差した。


「母よ。どうした」


「い、いるあなたの後ろに」


 母の声は震えていた。

 俺はゆっくりと後ろを振り返ると確かに、そこにはモン娘化したアリスが申し訳なさそうな顔でそこにいた。よくよく考えると部屋の中は赤く光っているのだ。そりゃ部屋の何処かにいる筈だ。

 ここは嘘をついておくか。


「いや何もいないよ。俺には何も見えない」


 俺の言葉を聞くと母はその場で気絶してしまった。

 ワンチャンこれで誤魔化せてるといいが。

 とりあえず母を運ぶか。


「俺は母を部屋まで運ぶよ。アリスは落ち着くまで俺の部屋でじっとしてて」


 母を背に担ぎ一気に持ち上げる。

 重たいかなり重たいが、なんとか動けそうだ。


「アリス、俺が部屋を出たら扉閉めてね」


 母を担いだままじゃ扉を閉めれなさそうなのでアリスに頼む。

 アリスが肯定の返事をしてくれたので俺はほんのり暗い廊下を歩き出した。

 途中メイドと出くわし代わりますと提案があったが、これもいい筋トレだと突っぱね一人で運び切った。

 フゥーっと額の汗を拭い俺は部屋に戻った。


「母めちゃくちゃ重かったぜ」


 と言いながら部屋に入る。

 俺が入った瞬間部屋が、アリスが赤く輝き出す。


「な、ナツ君、まだ裸…」


 タルトをベットに置き今度こそ顔を両手で覆う。無論、指の隙間からしっかりと俺の裸を見ていた。


「やべー俺まさか全裸のまま家の中を歩いてたって事?」


「そ、そうだと思います」


 嘘だろ。全然気づかなかった。とりあえず母をこの部屋から出さなければって事で頭がいっぱいだった。


「俺って馬鹿なのかな?」


「服を…服を着てください」


「それもそうだな」


 俺はズンズンズンとアリスもといベットに近づく。


「あの…ナツ君どうしてこっちに…これ以上は近づかないで…」


「そんな事言ったって服がベットの上にあるからなー」


「な…なるほど」


 俺はベットに手を突っ込みお洋服一式を取り出す。パンツから順に履いて行く。

 これでアリスもちょっとは落ち着くだろ。


「どうだ?戻れそうか?」


「当分戻れないかもしれないです」


「じゃあ戻るまでここにいていいよ。今日みたいなハプニングがない限り基本誰も俺の部屋には来ないから」


 リアがいれば話は別だったが。


「この部屋にですか…。もしかしたら戻るのすごく時間がかかるかもしれません」


「そっかぁ」


 この部屋にいると俺の裸を想像しちゃったりするのかな?男の裸だけでモン娘化するなんてマジでこの先心配だ。

 にしてもアリス。なんだか元気がないな。


「どうした?調子悪い?」


「お義母様私の姿を見て凄く怖がってました。ナツ君が怖がらないでいてくれるから勘違いしてました。やっぱり私は化け物なんだ」


 アリスがしんみりとした様子で答えてくれる。どうやら先の母の反応にショックを受けてるようだ。

 母めアリスの心に傷をつけやがって。


「そんなアリスを俺は頼りにしてる。それにさその姿さ…なんていうのかな…えー…あれだよアレ」


 やべー可愛いの一言がでねー。

 一言言えばいいだけなのに変に恥ずかしがってキョドるなんて情けね!

 慰めの一言ぐらいビシッと言えよ俺の馬鹿。童貞。


「無理して慰めようとしなくていいです」


 言葉が出ない俺を見てアリスは更に悲しそうな表情をした。

 俺は何をやっているのだろう。この三ヶ月間唯一の話し相手だったアリスを悲しませるなんて。

 覚悟を決めろ俺。


「可愛いって言おうとしたんだよ。でも恥ずかしくてさ、なかなか言えなかった。お、女の子なんてさ、今まで一度も口説いた事ないからさちょっとキョドッちゃったよ。慣れない事はするもんじゃないね。でもさ、うん実際さうん、極々一般的な感性を持ってる俺がさ、可愛いって思ってるからさ大多数の人がその姿を可愛いっていうと思うよ、うん」


 照れ隠しのあまり早口が止まんねー。

 まだまだ早口が止まらない俺の口をアリスが手を当て塞いだ。


「もう…もう充分ですから」


 よく見たら顔は真っ赤っか髪の光も少しだけ強くなっている。

 しかもアリスの髪が俺の肌を這うようにしてまとわりついてくる。


「ご、ごめん。キモかったよな」


「いえ…」


 なんか恥ずかしいし気まずいしどうしよこの空気。

 話変えるか。


「タルト!タルトさ持ってきてくれてたよな」


「は、はい。買ってきたんです。よかったら食べてください」


 ズズッとベットの上にあったタルトを俺に差し出してくれる。フォークとかはないので手で取って齧り付く。巻きついてきた髪が少しだけ邪魔だ。


「うんうまい」


「本当ですか。良かったです。でもさっき色々あったから生地が崩れてると思います。それは目をつぶっていただければ」


 まるでアリスが作ったみたいな言い方だ。


「これ実はアリスの手作りだったりする?」


 アリスは何も言わずに俯き、小さくコクリと頷いた。


「料理上手だね。めちゃくちゃ美味いよ」


 そう言って一気にタルトを食べ、アリスに「ご馳走様」と言ったら無言でペコリとお辞儀をしてくれた。


「あの私このままだと人の姿に戻れそうにないので帰ろうと思います」


「大丈夫そ?」


 仮に転移先に人がいたらアウトだ。


「大丈夫だと思います」


「そっか」


「また明日来てもいいですか?」


「勿論」


 明日全裸になるのは控えよう。


「本当ですか。嬉しいです。今日私が来たせいでナツ君に迷惑かけたからもう来ない方がいいのかなって思ってたけど、でもやっぱり来たいから」


「いつでも来ていいよ。俺も嬉しいし」


「はい。それじゃあまた明日」


「うん。また明日」


 アリスはルードラで帰っていった。

 俺はアリスの髪で乱れた服を脱ぎ捨て筋トレを始めた。

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