第25話
「よく言えたな」
とフレードば私の頭をポンポンと叩き私の上から退いた。
私はと言うと悔しさと恥ずかしさでなかなか起き上がる気がしない。見かねたフレードが私に手を差し出す。
「そろそろ他の奴らの模擬戦が始まるぞ。ほら」
「…ありがと」
私はその手を素直に取り立ち上がった。大きな手だ。
そこへラウドが私とフレードの間に割り込んでくる。
「リア!大丈夫か。怪我はないか」
フレードが去って行くのをついつい目で追ってしまう。
「申し訳ございません。負けてしまいました」
「いやいい。それより怪我はないか」
「大丈夫です」
背中が少し痛む程度だが怪我というほどのものでもないだろう。
「よかった」と安堵の息を吐くラウド。
そんなラウドの名前を試験官が呼ぶ。
「ちょうどいいラウド君次は君の番だ」
それとラウドの対戦相手の名前も呼ぶ。
「すまないリア付いていてあげれなくて」
「いえ頑張ってください」
私はフレードとの模擬戦が始まる前にいた場所まで戻った。
私に対する陰口が聞こえてくる。
「ちょっと魔法ができるからって調子に乗るから負けるのよ」
「平民の癖に貴族の男とイチャイチャして目障りでしたの。お灸を据えてくれたフレード様には感謝ですわ」
「ブス」
私の才能に冒険者志望の貴族達が嫉妬してるのだろう。いつもなら余裕で無視できただろうが、負けるはずのない相手に負けた今、精神的にキツくて正直耳障りだ。
「お前ら少し黙れよ」
男らしい一声で陰口を一蹴し、貴族共をかき分けフリードが現れる。そのまま私の横にピタッと位置を取る。
「あんた強かったな。名前は?」
真っ直ぐな目で私を見てくるのでついつい目を逸らしてしまう。
「…リア」
「リアって言うのか。背中破けてるじゃないか」
ああ、きっと吹き飛ばされた時だろう。
フレードは上着を脱ぐとわたしにソッと羽織らせた。
「…ありがと」
ムワッと広がる仄かに汗ばんだ彼の匂い。
横を見ると上着を脱いだフレードは薄いシャツ一枚でムキムキの体のラインが露わになっていた。
思わず見惚れてしまう。
「触ってもいいぜ」
私の視線に気づいたフレードがそう言ってくる。視線がバレた事が恥ずかしくて顔が熱くなるのが分かる。
「いや…それは流石に…」
言葉とは裏腹に手はスッと彼の腹筋に伸びていた。さわさわと触ってしまう。硬い。
これじゃ力じゃ勝てないわけだと妙に納得した。
「どうだ?」
「…すごい」
私は夢中で腹筋を撫でていた。ほとんど無意識だ。
そんな私の耳元にフレードが顔を近づける。
「なぁ俺とリアでパーティーを組まないか?」
パーティーとはダンジョンを一緒に潜るパーティーのことだろう。
「その前に一つ聞かせてあなた日本人?」
多分フレードは転生者だ。なんとも見事に成り切ってるものだ。
「?それは何かしらの魔法陣かそれともどっかの国の人か?」
これはすっとぼけているのかそれとも本当に現地人なのか。だとしたら転生者が裏にいる。
「今の質問はなんなんだ?」
「いや…別に…」
「なら改めて言うぜ。俺様とパーティー組めいいな」
先程とは違い命令口調。頷いてしまいそうな自分がいる。
「でも…私には…」
ラウドがいる。だから無理だ。
「リアだって俺様と組みたいだろ」
否定しなきゃと思ったけど、否定の言葉は出てこなかった。
そこへ再度ラウドが割り込んでくる。
どうやら模擬戦が終わったようだ。
「離れろ!リアから離れろ」
私とフレードを強引に引き剥がす。
「じゃあリア返事待ってるぜ」
そう言ってフレードは新入生の中へと消えて行く。
「返事って何のことだ、リア」
「パーティーに誘われまして」
「勿論断ったんだよな」
「…はい」
了承もしてないが断ってもいない。そう、私は嘘をついた。
「それよりも試合はどうなりましたか」
話を逸らしたかったから模擬戦の結果を聞いた。
「まさか見てなかったのか?」
これは墓穴を掘ってしまった。
「申し訳ございません。フレードがあまりにしつこかったもので」
頭を下げる。
「いや、見てないならいいんだ」
結局ラウドは模擬戦の結果を言わなかった。
にしてもここが18禁乙女ゲーの世界だと再認識させられた。
推しであるラウドでも感じた事がない胸の高鳴り。
いやあり得ない私が推しでも無いキャラにドキドキするなんて。
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