第24話


 私達が冒険者学校に着いてから一日後、冒険者を志望する子は能力を見たいから集まってくれと、運動場のような場所に集合させられた。

 四十人余りの新入生の思われる志望生が見受けられた。その中にいる一人の人物に目が止まる。

 攻略対象にして現役最強冒険者「剣聖」の子、フレード。

 冒険者らしい身軽い装いに、耳にかけられた髪、吊り上がった口角は自信の現れだろう。余裕そうに頭を掻いてはあくびをする。

 実際この中だと頭ひとつ抜けて強いだろう。私なら余裕で勝てるがラウドはきついかもしれない。

 チラッとラウドをみる。

 顔が強張って緊張しているようだ。


「どうかしたかリア」


 ラウドが視線に気づく。


「いえ、申し訳ございません」


「顔を見てたくらいで謝らなくていい。私とリアの仲じゃないか」


 するとラウドが私の肩を抱き身を寄せる。


「あまり離れるなよ。変な奴に目をつけられたら面倒だ」


 変な奴とは平民を嫌う貴族の事だろう。

 にしても推しと身を寄せ合うなんてなんと至福だろうか。一生懸命、好感度稼ぎした甲斐があったわ。

 ザッザッザッと足音を立て四人の冒険者のような試験官が私たちの前に現れる。


「では今から試験を始める。試験といっても合否があるわけではない。緊張せず全力で取り組んでいただきたい。魔法が使えるものは私に着いてきたまえ」


 顎にちょび髭を生やしたローブを着た男が歩き出す。


「行こうリア」


 ラウドが私の手を引いて男を追った。

 アーチェリーの的のような物があるところまで案内される。

 なんとなく予想がつく。


「今から君たちにはあの的目掛けて魔法を撃ってもらう。ダンジョン産の素材でできた頑丈な的だ。今まで壊せた者は誰もいない。君達の撃てる最大の魔法を遠慮なく撃ちたまえ。ではまずは前座に平民から行こうか。リア君前に出たまえ」


 どうやら平民だからと魔法の腕を低く見積もられてるみたいだ。

 最上位魔法を撃って度肝抜いてやろうかしらとも思ったが悪目立ちする気もない。

 普通にファイアを撃って終わりでいいだろう。

 腰に下げた木剣を抜き切先を的に向ける。


「ファイア」


 物凄い勢いで火球が飛んでいき、バギャンッと音を立て的を吹っ飛ばす。

 辺り一面に広がる静寂な空気。新入生や試験官がポカンと口を開け呆気に取られていた。

 あれ私何かやっちゃいました?

 多分今の私のレベルは四十相当だ。手加減したとしても最低限の威力は出てしまう。

 避けられない事故だったのだ、と私は試験官に何か言われる前にペコっとお辞儀をしてラウドの横に戻った。


「剣だけじゃなく魔法も凄いのだな」


「隠していたつもりは無いです。その、引いてしまわれましたか?」


「いいや。ただ今の私じゃ君の背中を守るには力不足だと感じてしまった。いずれ追いつくさ、それまで待っててくれリア」


「はい」


 その後ラウドを含めた他の生徒も魔法を撃ちこの試験は終わった。私以外に的を壊せる者はいなかった。


「では続いて新入生同士軽い模擬戦をしてもらう。例え怪我してもすぐに治せるだけの優秀な回復魔法師がここにはいる。人だからと手加減せず全力でやりなさい」


 名前を呼ばれた二人の生徒が向き合う。

 みんなの前で戦うみたいだ。

 向こうの世界にいた時からみんなの前でする発表事とか嫌いだったのよね。だからか少し緊張してしまう。


「次、リア君とフレード君前にでたまえ」


 試験官に名前を呼ばれる。

 いよいよ私の番だ。よりによって相手は攻略対象が一人フレードか。

 前に出ようとする私をラウドが手を握り引き止める。


「リア相手は有名冒険者の一人息子だ。この中で一人別格に強いだろう。無理はするな」


「はい」


「でもな。本音を言うとな、私以外の男に負けてほしく無い。私以外の男に負けてるリアを見たくないんだ」


 ラウドとは純粋な剣術だけの試合を何度もしており私が負け越している。勿論わざとだが。

 にしても何と意地らしいのだろうか。これも一種の独占欲だろうか。


「任せて下さいラウド様。ラウド様の望み叶えてまいります」


 ラウドは安堵したように微笑むと手を離してくれた。

 そうして私はフレードど相対する。

  実はこのキャラの事、正直嫌いなのよね。


「始め!」


 試験官の合図と共に模擬戦が始まるがフレードは一切動かない。

 持っていた木剣を肩に置き周りの新入生を見渡す。


「魔法が使える奴にとんでもない奴がいるって聞いたんだが、誰だか知ってるか。なんでも壊せない的を壊したとか」


 模擬戦が始まったと言うのに余裕綽々で聞いてくる。

 フレードは魔法を一切使うことができない剣士職だからあの場にはおらず、的を壊したのが私だと言うことも分かっていない。


「ソイツと戦いたいんだけどな」


 わざわざ自分から言う必要もあるまいと思っていた所、野次馬が「ソイツが的を壊した女だぞ」とあっさりとばらされてしまう。


「へーいいねぇ。ソイツは楽しめそうだ」


 フレードこう言う所が無理なのよね。

 自信家で野蛮な性格、ワイルドな所が好きと言うプレイヤーもいるが私は嫌いだ。

 さっさと終わらせよう。

 一気に距離を詰め低レベルだったら受け止めることができないぐらいの勢いで剣を振ったが、軽々と受け止められてしまう。

 思った以上に手加減をしてしまったか?

 再度踏み込み剣を何度か振るっていくが全て簡単にいなされてしまう。

 あり得ない。まだストーリーも始まっていないのにこんなに強いはずがない。

 今度は全力で斬りかかる。が、フレードも大きく踏み込み木剣を横に払う様にして振る。

 何とか防いだが力負けし後ろへ軽く吹き飛ばされてしまう。


「あんた剣も強いな。負ける気はしないけどな。魔法は使わないのか?このままじゃ退屈だぜ」


 ラウドと戦う時は魔法を使ったことがない。だから魔法を使わずにフレードを倒す所をラウドに見せたかったが、多分剣術だけじゃ勝つことはできない。ここは魔法を使うしかない。

 木剣の切先をフレードに向ける。


「ファイア」


 もし木剣で受け止めたのなら木剣は壊れ、躱したならもう一発撃ち込む。魔法が当たれば試験官も止めてくれるだろう。

 しかしフレードは魔法を剣で切り裂きまたしてもいとも容易く防がれてしまう。

 予想してなかった防ぎ方にびっくりしてしまうが、やることは変わらない。何度も魔法を撃ち込んでいく。が、接近戦同様全く攻撃が通る気配がない。

 明らかに強すぎる。まさか転生者?


「魔法を使ってもこんなもんか。もう終わらせようかね」


 ダンッと一気にフレードが詰めてくる。

 負ける。


「ファイアラーガ!」


 焦った私は反射的に炎属性の最上位魔法を撃っていた。まるで龍のようになった炎がフレードを襲う。このままじゃフレードは死んでしまうそう思ったが


「ウォークライ」


 身体強化のスキルをフレードが自身にかけると私が撃った炎の最上位魔法を切り裂き、そのまま私に斬りかかる。

 既の所でガードしたがあまりの力強さにさっきとは比べものにならないほど大きく吹き飛ばされ地に背中をつける。

 フレードが私のお腹の上にドカッと乗ってくる。


「チェックメイトだ。何を言えばいいか分かるな」


 負けたくない。あれだけやったゲームの世界こんな簡単に負けるもんですか。


「まだ終わっ─────」


 フレードによって口を手で塞がれてしまう。これじゃ魔法を出せない。

 フレードが私に顔を近づける。


「悪あがきはよせ。お前自身分かってるだろ、俺様には勝てないって。もう一度聞くぞ。何を言えばいいか分かってるな、分かったなら頷け手を退けてやる」


 ささやくように目の前で語りかけてくる。

 負けたくないのに謎の感情が湧き上がってきて抵抗する気力が失われる。

 私は素直にコクンと頷いた。


「いい娘だ」


 と言うと手を口から退けてくれる。

 遠くからラウド声が聞こえてくるが何を言ってるかまでは分からなかった。それほどまでにこの状況に謎のドキドキ感を覚えていた。

 そして私は宣言する。悔しくて恥ずかしくて言いたくないけど開いた口は止まらなかった。


「ま、負けました」


 屈服感、敗北感に身体中支配された。

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