第23話

 ウツツとの一連の騒動から数日が経ち、俺は穏やかな日々を筋トレと剣術に費やしていた。

 時折アリスがルードラで遊びに来るのだが、転移魔法の存在をリアや誰かに知られたらウツツに何をされるか分かったモンじゃない、それをアリスにも伝えて極力人のいない時間帯に来てもらっている。

 本当は来ないように言えたらいいのだろうが、アリスが偶にケーキやクッキーと言ったおやつを持ってきてくれるのだ。

 食欲には勝てぬ食べ盛りの年頃だ。そして体を動かしたい運動盛りの年頃でもある。

 今日も今日とて訓練所の隅っこで元気よく素振り。前より全然木剣を振るのも慣れてきた。そろそろ普通の剣で素振りをしてもいい頃合いだろうか?

 カンカンカンと木剣のぶつかり合う音が聞こえてくる。リアとラウドも今日も今日とて二人して特訓中だ。

 俺も対人戦に踏み込むべきか?今度どちらかに頼んでみようかな。

 そこへ母が訓練所に入ってくる。


「ラウドちゃんそれとリア少し用があるから来てくれるかしら」


 二人は二つ返事で返すと母と共に訓練所を去っていく。

 訓練所に俺一人。せっかく広く自由に使えるようになったのだ、俺は訓練所のど真ん中に躍り出て大きな声で「めーーん」と素振りを始めた。

 どうせだしジバシリも試してみるか。

 剣を構える。


「ジバシリ」


 ガガガガガガッと地面を擦り振り上げる。初めての頃とは違いしっかりと振り抜くことができた。

 なんだか妙に手応えある。まるでマッチ棒を擦った時のような感覚だ。

 もしかしたらジバシリを撃てるかもしれない。そんなワクワク感に駆られ今日は一日中ジバシリの練習をした。

 その夜。

 リアがいつものように食事を持ってきて、誰にも聞かせられない転生者同士の会話が始まる。


「実はねあなたに報告があるの」


「どんな?」


 重々しい空気…のような気がする


「ラウド様の付き添い兼護衛で冒険者学校に入学する事になったの」


「へー良かったじゃん。どれくらい良いことか分からんけど」


 学校に入学するって聞くと普通に良いことのように聞こえるけど、なんせ貴族とか平民とかの隔たりが凄そうだからなぁ。リアは苦労するかもしれない。


「あなた呑気ね。これから先、私の助けが無くなるって事よ」


「?どうして」


「冒険者学校は遠くにあって私たちは寮暮らしになるからよ。当分あなたとは会えないの」


「へーそうなんだ」


「ちょっとは悲しみなさいよ」


「悲しむ程時を過ごしてないしなぁ」


 にしても冒険者学校か。どんな所なんだろ気になるな。


「そんなことより冒険者学校の事、教えて欲しいかな」


「そんな事って、私がいなくなったら絶対困るわよ。まあいいわ。冒険者学校のことね。冒険者学校はとある有名冒険者が昔、後進育成のために建てた学校なんだけど、貴族に目をつけられて今はほとんど貴族の子の遊びに場になってるわ。あ!あとねこの学校ゲームの舞台でもあるのよ」


「もしかして俺もいつか行くことになる?」


「なるわね。あと三年後ってとこかしら。その時はもうストーリーに突入してるんじゃないかしら」


 まじか、行きたくねー。


「でもさ、そんなとこ行く意味なくね。ただの遊び場なんでしょ」


「そんなことないわ。貴族の子の中にも冒険者になりたいって子はいるし、特待生として優秀な平民も入学してくるから現役冒険者がしっかりと教鞭を取ってくれるわ。私は特待生じゃなくてサンザンベル家のコネではいるんだけどね」


「へー。兄は冒険者になりたいのか?」


「家を継ぐ前に一旗あげたいのよ。ダンジョンには夢と希望が詰まってるからね」


 冒険者なかなか夢がありそうな職業だ。なる気はないけど。

というかアリスの家って誰か継ぐ人いるのかな?所詮は18禁乙女ゲーム気にしたら負けか。


「それじゃあしばしのお別れか。怪我と病気に気をつけて」


「出発は明後日の朝だけどね。明日まではちゃんとご飯を届けてあげるわよ」


「ありがとう」


そして二日後の朝。

 リアとラウドは冒険者学校へと発って行った。

 父がいた為リアを見送ることはできなかった。

 あれだけ悲しくないと言ったのにほんのちょびっとだけ部屋の中で涙を流してしまった。

利用されてるかもしれないのになんと健気なんだろうか俺。

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