第22話
サンザンベル家の真ん前まで送ってくれた御者にお礼を言い、サンザンベル邸へと入っていく。少女がいない事に御者は驚いていたが「そういう事もあります」と言うと「それもそうですな」と何故か納得し馬車を引いて消えていった。
玄関前ではアリス母から連絡を貰ったのか母が待っていた。
「よかったわ無事で。母あなたの為に何もしてあげられなかったわ。ごめんね」
母は俺をそっと抱きしめ、再度「ごめんね」と呟いた。
自分の無事を喜んでくれる人がいる事にとても嬉しくなってしまう。母をギュッと抱きしめ返したかった。
「心配かけてごめん。でもこの通りピンピンしてるよ」
母はスッと俺から離れた。
「本当によかったわ。ワードさんも心配してたのよ」
それは嘘だとすぐ分かった。なんせすごい嫌われようだっからな。
俺は「そうなんだ」と適当に返した。
「疲れたでしょ。部屋でゆっくりと休みなさい。食事を持って行かせるわ」
フカフカのベットから起きて、アリスの母に問い詰められて、数時間馬車に乗っただけだからそこまで疲れてないんだよなぁ。
どうせだから剣でも振って心を落ち着けたい。剣を振ってるとどんどん強くなってるような気がして落ち着くんだよなぁ。
「いや訓練所に行こうと思う。剣を振りたい気分だ」
「最近熱心ね。でも今ラウドちゃんとリアが使ってるから邪魔しないようにしなさいね。お父様が怒っちゃうわ」
リアがいるのか。なんかちょっとだけ気まずいな。わざわざ自分から会いに行く必要もないか。
「兄も俺がいると剣の稽古に身が入らないだろうし、やっぱ部屋で休むよ」
「気なんか使う子じゃなかったのに…」
やべー素で返事しすぎた。
「子供にも色々あるんだよ。母の知らない所で成長するものさ」
「気遣わせしてごめんね」
母も何か思うところがあるのだろうか?
「んじゃ部屋に行くよ」
俺は部屋に入るなり速攻で筋トレを始めた。
疲れては数十分休憩しまた筋トレをするを何度も繰り返した。
とてもやる気に満ち溢れていた。そのおかげか自分の思っているより筋トレを続けることができた。
その日の夜コンコンと扉が鳴り俺の食事が届けられる。
食事を持ってきたのは勿論リアだ。
「よっ!なんか久しぶりな気がするな」
わざとらしく明るい挨拶をする。
「とりあえずおかえりなさい。ほんとに良かったわ」
「ほんとな」
リアはベットの上に晩飯の乗ったトレイを置く。
美味しそうだ。食べちゃお。
「あなたに言ってなかったわね。悪魔団の事。言うべきだったわ。ごめんなさい」
リアは頭を下げた。
俺が悪魔団に襲われた事は知っているようだ。
「いやいいよ。こうして命があるわけだし」
「よく生きてたわね。何があったか聞いていいかしら」
どこまで話せばいいだろうか。
ウツツの事は伏せた方がいいよな。話したらウツツに殺されそうだし。
アリスのモン娘化は話すか?この世界の元となったゲームをかなりしてると言っていたし絶対に知ってるよな。
そもそもアリスのモン娘バレはゲームのどの辺りでするのだろうか?元となった乙女ゲーにはクリア後があるらしい。
万が一、億が一にも知らないと言う可能性があるかもしれない。これも伏せておくか。
「アリスと話してたらいきなり悪魔団の奴らに拉致されて、アリスの助けでなんとか二人で逃げ延びたよ」
「多分アリスのおじいさんよね?拉致だなんてそんな大胆な事してくるとは思わなかったわ。今のアリスでよく逃げることができたわね」
ウツツがアリスの爺ちゃん、て訳じゃないよな?多分違うはずだ。
「アリスの爺ちゃんかどうかは知らんけど、逃げ延びる事ができたのはもしかしたら俺のおかげかもしれない」
「あなたが?信じられないわね」
あながち嘘じゃないんだけどなぁ。ほとんどアリスのおかげだけど。
「でも今回の一件で俺自身強くならなきゃなぁって思ったよ」
「あら、アリスが助けてくれたんでしょ。と言う事はこれからアリスに守ってもらうんじゃないの?」
「まぁ自力はあったほうがいいじゃん」
「それもそうね。それでどうやってアリスに護衛するよう頼んだの?」
「脅して」
リアに物凄い目で見られる。
「ま、手段はともかく、目的通りに行って良かったじゃない。アリスに守られながら地道に強くなっていくといいわ。ジバシリが撃てるようになったらもう一つの技も教えてあげるわね」
「…頑張るよ」
俺はジバシリを使えるようになるのだろうか?
いや決めたんだ例えスキルを覚えられなくても剣は使って行くって。その延長線上でジバシリ習得もやってみようじゃないか。
フンっと気合を入れた所で俺は晩飯を掻き込んだ。
「ご馳走さん。今日もおいしかったよ」
「はい。じゃあ下げるわね」
「ありがとう」
トレイを持って部屋を去ろうとしたリアがドアを開ける前に立ち止まる。
「あのさ…」
「どした」
少し無言が続き
「いや…なんでもない。あんまりアリスに変なことしないでね」
「分かったよ」
今度こそリアは部屋を出た。
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