第21話

「お嬢ちゃん、今きみのお兄さんと大事な話をしててね。後でお菓子あげるから静かにできるかい」


 ミファは目をキラキラさせながら「お菓子!」と歓喜の声を上げた。その声が大きかったものだから御者に「どうしたんですかい、女の子の声が聞こえましたけど」と聞かれた。


「いきなり女の子が乗り込んで来て、話し相手になって貰ってます」


「ここら辺の子ですかねー。送り届けますかい?」


「どうするよ」


 と、俺はウツツに聞いた。


「お菓子、お前お菓子くれるって言った。早くよこせ。じゃないとどこにも行かない」


 が、ウツツの代わりにミファが答えた。


「乗ってくみたいです。この子の分の代金は支払います」


「そうですかい」


 俺は再びウツツに話しかける。


「で、他になんか用あるか?」


「特にねーよ」


「ミファね実はね、お茶会っていうのに憧れてるの。ケーキとね、紅茶っていう飲み物飲んでみたいんだ。どっちも食べた事がないから楽しみだ」


 何故かミファも会話に参加する。


「無いんだ」


 一応、ミファが言い終わるまで待ってあげてるが、ウツツに対して言った言葉である。


「そうだな。強いて言うなら転生者の事、教えてくれてもいいんだぜ」


 コイツにリアのこと話すと何が起きるか分からねー。ここは一旦保留だ。


「そう、見たことすらない。ケーキってミファの身長並みにでかいのがあるんでしょ。それ食べてみたい」


 ウェディングケーキのことだろうか?


「それはちょっと考えさせてくれ」


「ちっ。まあいいどうせ今は頭だけで何もできねー。それにヤーナツに姿を晒すぐらいだ、ストーリーにちょっかいかけてくんだろどうせ。その時ぼこすか」


「あんた使えない奴だね。せっかくミファの下僕にしてやろうと思ったのに。もしお菓子くれなかったら殺すからね」


「危ないこと言うなよ。てかそろそろ一人づつ喋ろうな」


 何故ウツツは平然と会話を続けてたのだろうか。もしかしたらこの子の喋り続けるは日常的なのかもしれない。


「じゃああんたが黙ってて。ねぇにぃは何が食べたい」


「俺は何もいらねぇよ」


「一緒にお茶会しようよ」


「体もねぇのに出来るわけねぇだろ。コイツに付き合ってもらえ」


「にぃほんとにお茶会しないの?」


「出来ねぇって言ってんだろ」


「じゃあミファもお茶会しない。お菓子もいらない」


 ミファはしゅんっとし俯いてしまう。今にも泣き出しそうだ。


「おい、お前いいのかよ」


「いいんだよ。こいつ、いつもうるせーし。それに後で肉焼いてやりゃあすぐ機嫌良くなるしな」


 ウツツは悪びれる様子もなく言った。


「でもお前肉を焼くための体無いじゃん」


「誰のせいだよ」


「自業自得だろ。体まだ取りに行ってねーの?」


「行ったが体の方は魔法が使えてな、近づくことすら出来やしねぇ」


 腹立たしそうに「クソが」とウツツは呟いた。

 どうやら体も頭と一緒で生きており独自に行動しているようだ。


「自分の体に反旗を翻されてる訳か。難儀だなぁ」


「お前が切ったんだろ。次、体を取り行くときはお前とアリスを連れてくからな。それまでに強くなっとけよ。お前今何かやってんのか、強くなるために」


 やってはいるがリアの事も話しかねないのであまり言いたく無いな。


「努力はしてるよ」


「へー何してんだ。興味があるなぁ。なんせお前の体はヤーナツだ」


 嫌味ったらしく聞いてくんなよ。


「ジバシリ、て技を覚えようとしてるよ」


「は?ジバシリ?」


 ウツツは一瞬考え込んだ後、なるほどなと言い口を開いた。


「お前とことん利用されてんだな。ヤーナツじゃその剣術スキルは覚えねーよ。実験感覚で変なことさせられてんぞ」


 この感じ俺がリアに色々教わってる事はバレてそーだな。

 にしても覚えれないとはどう言う事だろうか。変に駆け引きをしていては得られる情報も得られない。ここは踏み込んで聞くべきだ。


「覚えられないってどう言う事だよ」


「ヤーナツはファイアしか使えないが一応魔法職なんだよ。せめて魔法を教えるってんならまだしもまさか剣とはな」


 まじか…。なんか地味にいや、めちゃくちゃショックだ。


「どうしよう。このままジバシリの練習するべきかな?」


「知らねーよ。ちょっとは自分で考えろ」


 顎に手を当て考える。

 悩ましい問題だ。

 魔法もファイアという魔法しか使えないと言う。聞く限り火の魔法で間違い無いだろう。もしかしたらトラウマで発動できない可能性だってあるかも知れない。

 やはりここは筋トレしかない。


「決めた。とりあえず筋トレだけはしっかりする。あと剣もスキルが使えなくても扱っていくよ」


「それがいいかもな。スキルなんざ無くても筋肉と剣があればなんとかなるだろ。にしても、なんでジバシリなんか覚えさせようとしやがったんだ?もっといい技いっぱいあんだろ」


「なんでも熟練度マックスで最強の技がどうたらこうたら」


 すると急に大声でウツツが笑い出した。

 そんなに大声で笑ってたらまた御者に声かけられちゃうよ、と思ったが後ろから聞こえてくる奇声に慣れたのか何も言って来なかった。


「なるほどな。そいつは現実とゲームをお前を使って擦り合わせてる訳だ。にしてもヤーナツが刃魔十画はまじっかくか、あり得ねぇが使えたらヤーナツでもある程度戦力になるかも知れねぇ。おいどうせだからやってみろよ。もう一個の技は知ってんのか」


 他人事だからって面白がりやがって。


「いや知らん」


「じゃあそいつの代わりに俺が教えてやるよ。チンスラって言うんだ。技名の由来はナニの臨戦時の角度が振り下ろす時の角度と直結するからだ。しかもこの技ただの振り下ろしの癖に何故か自傷ダメージがあんだよ。ただ悪い点だけじゃねぇ。振り下ろす時の角度が高ぇと振り上げの追加効果が発生すんだよ」


 確か技を使っていけば熟練度が上がっていく感じだったっけ?


「自傷ダメージって熟練度あげきつくね」


「頑張れや。ちなみに女キャラだとデメリット無し、追加効果発生無しで発動出来る。だから熟練度を上げるだけってんなら女の方が圧倒的に楽だ。ワード以外チンスラは覚えねーけどな」


 俺の婚約者そんな下品な技覚えるんだ。

 そこで御者から「もうそろそろ着きますよ」と声がかかった。


「んじゃそろそろ消えるぜ。あ、忘れてたぜ。転移魔法の事は誰にも言うんじゃねーぞ。アリスにも伝えとけ。じゃもう行くぞミファ」


 もうアリス母が知ってるけどね。


「お菓子一緒に食べてくれてもいいじゃん」


 未だにミファはしょんぼりとしている。


「食わねぇつったろ。もう行くぞルードラ」


 ウツツが唱えると一瞬で二人は消えていった。

 何故に魔法が使えるん?使えないんじゃなかったっけ?

 ていうか俺とウツツ普通に友達ってくらい仲良くね?嫌いかんいかん。あまり他人を信用しすぎるな俺。

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