第19話

 密室に俺とアリスとアリスの母三人。一体なんの話があるのだろうか。


「災難でしたね。何故悪魔団があなたを拉致したかお分かりですか?」


 何故と言われても俺が転生者でアリスに近づいたからなんて言えないよな。


「記憶が曖昧で…何故なんでしょう?」


「とぼけても無駄ですよ。あなたアリスに何をしようとしたのですか。何故アリスの事知っているのですか」


「お母様そんな言い方はあんまりです。ヤーナツ君が襲われたのは私のせいです。謝罪こそすれど責める謂れは無いのです」


「私はあなたの事を心配しているのです。何かされたりしてませんか?助けて欲しい時はちゃんと言ってください。あなたの為ならなんだってしますよ。例え殺人でも」


 アリスとても愛されてるじゃないか。全然話が見えて来ないけど。


「怖い事を言わないで下さい。私別に何もされてませんよ」


「そんなはずはありません。あなたもヤーナツさんがどんな子か分かってるはずです。もしかして、やたら肩を持つなと思ってはいたけれどもう既にあの事で脅されてるのではないですか」


 ギクゥゥ。

 どうやらアリスの母は知っているようだ。俺がアリスの事を悪魔だって知っている事を。実際は悪魔じゃなくてモン娘だったけど。


「ヤーナツ君はお母様が思ってるより悪い人じゃありませんでした。私ヤーナツ君に命を救われたんですよ」


「嘘をおっしゃい。あなた記憶がないって言っていたではありませんか。アリス、この子が私に何をしたか教えてあげたでしょ。もういいのよ嘘をつかなくて。脅しに怯えなくて」


「ヤーナツ君に少し確認をしてもいいですか。ヤーナツ君本当にお母様にアレをしたのですか?」


 俺は何をしたんだ?この感じ結構やばい事をしてそうだが。


「いやーアレと言われても分かんないや」


「まさかアレを忘れたと言うのですか」


 やべー、アリス母すげー怒ってる。


「アレですよアレ。母にカンチョーをし、その後指を嗅いで大きな声でくせーと言ったアレです」


 ヤーナツ君すげー事してんなー。


「そんな事もあったかな?」


 なんせ身に覚えがないのだ。はっきりと自白することなどできるはずもない。しかし否定をしたらしたでアリス母の神経を逆撫でしかねない。

 ここは中途半端な態度を取って誤魔化すのだ。


「サイテーです。幻滅しました」


 誤魔化せるはずもなく、蔑みの目で見られる。


「そうなのよ、サイテーな子なのよ。この子は。だからアリスとは関わらせたくなかったのに、まさかあの事を知られるなんて。このままじゃあなたの人生は生き地獄よ」


「いえ、お母様。ヤーナツ君がいる限り私の人生は地獄にはなり得ません。むしろ紛いなりにも人としての人生を歩めそうです」


「アリス、どうしてそこまでヤーナツさんを…まるでこれから人生を共に歩むみたいな言い方して…」


「僕からもいいですか」


「え、なに?なにこの流れもしかして結婚報告?」


 アリスの母もウチの母に負けないくらい変わった人だなぁ。口調変わってるし。


「信じられないかもしれませんが、アリスさんの秘密を誰かに口外するつもりはありません。それどころか僕はその秘密を守り通すとアリスさんに誓いました」


「生涯をかけて守り通すと誓っちゃいましたか。これもう娘さんを下さいと同義ではありませんか。心なしかヤーナツさんが誠実に見えてきましたわ。子供は成長するものねぇ」


 愉快なお母様だ。


「お母様やめて下さい。恥ずかしいです」


 アリスは顔を真っ赤にし、俯いている。


「貴方達二人に何があったかは分かりません。しかし行方不明の最中に二人の間に強い絆、そう『愛』が芽生えたのだけは分かりました。私は貴方達を祝福しましょう。ですが険しい道のりですよ。ヤーナツさんにも婚約者はいますし、アリスの婚約者はヤーナツさんの実兄です。きっと邪魔するものも出てきましょう。燃え上がる愛で二人して乗り越えていくのです。時には私も力を貸しましょう。いつでも相談しに来ていいですからね」


 母と言いどんだけ貴族の奥様方は愛が好きなんだ。と言うかこの人


「なんか楽しんでません?」


「私は真剣そのものです」


 そうですか。


「はっきり言いますと奥さんの考えてるようなことは何もないですよ」


 アリスもぶんぶんぶんと首を大きく縦に振る。


「皆まで言わなくとも大丈夫です」


 駄目だこりゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る