第18話

「それじゃ帰ろうかと思うけど、ルードラでとべそう?」


 俺たちが元々いた場所とこのリゾート地は、結構距離があるらしく歩いて帰るには現実的では無かった。

 そもそもアリスの転移魔法でここまできたのだ。大丈夫だと思うが一応聞いてみる。


「飛べそうです」


「やっぱすげーな、アリス。ウツツ、距離制限があるって言ってたけどアリスには関係ねーや」


 チートキャラたる所以だろうか。


「では行きましょうか」


 うん、と返事をしそうになったがある事に気づく。


「ちょっと待った。服が変わってるの変に思われないかな。俺たち」


 そう、三日前とは服が違うのだ。


「思われるかもしれません。でもヤーナツ君の服は血だらけのズタズタで捨てましたし、私の服は戦闘中に消し飛んでしまいました。どうしましょう」


「ちょっと捨てられた服拾ってくるわ」


「捨てたと言っても別荘に捨ててしまったら、次にお父様達が来た時変に思われるでしょうから燃やしてしまいました。勝手な事してしまってごめんなさい」


「アリスの判断は正しい。後処理みたいなことしてくれてありがとう。しかしとなると手段は一つしかないな」


 すかさず俺は服を脱ぎ捨てパンツ一丁になった。無論ブリーフだ。


「きゃーー!?何をしてるんですか。早く服を着てください」


「パンイチならば何も問題はあるまい。アリスに無理強いはしない。しかし俺の事は止めてくれるな」


「お願いだから服を着てください。じゃないと今日も帰れなくなります」


 アリスの体がどんどん変色していき、髪も変質していく。

 最後の確認としてわざとらしく服を脱いだが、やはりアリスは興奮するとモン娘化するようだ。これは隠し通すのはなかなか難しいかもしれない。

 服を着てくれという割には指の隙間からしっかりと我が麗しのボデーを見ているし。


「アリス俺心配だよ。男の裸見ただけでそんな風になっちゃうなんて。よく今までバレなかったね」


「大丈夫!大丈夫ですから、服を着てください」


 アリスの言う通り服を着る。


「もう!服を着たまま帰りますよ。堂々としていればなんとかなるはずです」


「そんな行き当たりばったりな」


「ヤーナツ君手を。あ、チョンって触れる程度でお願いします」


 あれこれは嫌われてしまいましたか?だったら悲しい。セクハラ紛いな事した俺が悪いんだけど。

 チョン、とアリスの手に人差し指で触れた。


「では、行きます。ルードラ」


 視界が一瞬暗くなり風景が一変する。綺麗に整えられた部屋、ここはどこだ。


「ここは…」


「私の部屋です。あの、あまり見ないでいただけるとありがたいです」


 いきなり部屋というのは不自然ではないだろうか。

 なぜ?と、聞きたかったがこちとら送ってもらった身。感謝こそすれど変なことを聞くのは野暮というものだ。


「女の子の部屋初めて入った」


 良い匂いがする。


「恥ずかしいのでもう出ましょう。ほら」


 アリスが俺の背中を押して部屋の扉まで誘う。

 ガチャと扉が開き廊下に出ると窓拭きをしていたメイドと目が合った。


「アリス様!!何故ここに。すぐに奥様に知らせてまいります」


 ピューとメイドは走り去っていき、一人のお淑やかなゆったりとしたパジャマを着た女性を連れてきた。


「アリス無事だったの」


 女性はアリスに抱きついた。


「お母様恥ずかしいです」


「心配したのよ。お父さんなんてもうずっと帰ってきてないのよ。もしかして家にいたの?ずいぶん綺麗だわ」


「いえ…あの…」


 アリスは言葉を詰まらせる。まるで助けを求めるように俺の方を見た。


「俺もアリスさんも実は記憶が曖昧というかほとんど無いと言っても良いので正直いろいろ聞かれても答えられないですよ」


 ぶんぶんぶんとアリスが首を縦に振った。


「ヤーナツさんも無事だったのね。昨日まであなたの家族もいたのよ。とりあえず二人が無事だったようだしお父さんに連絡しないと」


 傍にいたメイドに一言二言何か言うとメイドはきえていった。


「アリス疲れてるでしょ?部屋で休んでなさいな。ヤーナツさんには少し聞きたい事があるので一緒に来てもらいます」


「お母様、私も一緒にいいですか」


「あなたは部屋にいなさい」


「いえ私も同席します」


「アリスにしては強情ですね。あなたにとってあまりいい話ではないかもしれませんよ」


「それでも構いません」


「では行きましょうか。ヤーナツさんもついてきてください」


 一体なんだろう。

 俺は無言でついて行った。

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