第15話
「自分の傷は直さなくて大丈夫か?」
明らかに俺よりアリスの方が酷そうだもんな。
「回復魔法をかけても治らなくて…。私が化け物だからでしょうか?」
「どうだろうな。もしかしたらウツツの最後に放った魔法が原因かもしれないし聞いてくるか」
そこで突然「アリス様ー、どこですかアリス様ー」という声が複数聞こえてきた。
アリスが人に戻れない今、これはやばい状況なんじゃないか。
「アリス立てるか。早く移動しよう」
「私は一人で大丈夫ですからヤーナツ君は声のする方へ行って下さい。きっと保護してくれます」
「そんなん言われたらますます一人にさせたくねぇや。それに秘密は俺が隠し通す、て言っちゃったからな。ほら肩貸すよ」
「い、いえ大丈夫です一人で立てます」
アリスは立ち上がったがすぐに前によろけた。
転ばないよう受け止める。めちゃくちゃやわらけーや。
「ご、ごめんなさい。こんな気持ち悪い体で寄りかかっちゃって」
「そんな事言ってる場合じゃねー。立てないようだしおんぶするから。嫌でも我慢してくれ」
「あ、だ、駄目です」というアリスを無視して無理矢理おんぶする。後で痴漢で捕まるだろうか?この世界にそう言う法がない事を祈るばかりだ。
にしてもスベスベでモチモチだ。人のものとは肌触りも感触もちょっと違うだろうか?それにこれ髪で隠れてて分からなかったけど尻尾もありそう。
て、何を考えてるんだ。これじゃ本当に痴漢みたいじゃないか。
よいしょっと持ち上げ直し歩こうとしたが、やばいこれ重くて歩けねーかも。それに俺筋肉痛だった。
「重いですよね。私は置いていって構いませんから」
それじゃあ本末転倒じゃないか。
普通の歩く速度よりかは遅いがなんとか一歩、また一歩と歩き出した。
このままどこか隠れれる場所まで運んでやる。
「おい、俺が転移魔法でどうにかしてやってもいいぜ。その代わり体を持ってこい」
ウツツの奴なかなかいい提案をするじゃないか。でも正直こえーなぁ。
アリスも喋る生首にびびってるし。
「絶対に俺たちに攻撃して来ないって言えるか」
「しねーよ。戦うだけの余力がねー」
アリスにも確認しとくか。
「ウツツの提案、受け入れようと思うけどいいかな?」
俺の肩の上に顎を置いていたアリスがコクンと頷いた。
アリスをウツツの体があるとこまで運び、下ろす。アリスが首のない体を見て再度ビビる。なんか小動物みたいで可愛い。
そっから三メートル先ぐらいに転がってるウツツの頭部を拾い上げ体まで運ぶ。
「切断面をピッタリくっつけてくれ」
なんか嫌なこと頼むなー。
ウツツの体の上体を起こすと意を決してビチャッと首と首をくっつけた。
「ありがとよ。ブラックスワン」
しかし何も起きない。
魔法が使えないってことか?
「これ転移魔法も使えないんじゃないか?」
アリスを探しにきた人達の声もどんどん近づいてくる。ますますやばい状況だ。
「ルードラに回数制限があるって言ったの覚えてっか、今日もう使い果たしてるからそもそも使えねーぞ」
「は?お前それ俺を騙してたってことじゃないか。よし殴るか」
「殴ってる暇なんかあんのかよ」
そうだった。早くここから移動しないと。
「転移魔法ってさ俺でも使えるかな」
「さぁな」
「賭けてみるか、この俺の秘められた才能に。これって一緒に転移したい相手には触れてないと駄目だよな」
確かあの時ウツツは転移魔法を使う前に、俺の頭を踏みつけていた。
「そうだ。それと行きたい場所を思い浮かべんだ。ただ距離を見誤るなよ。これだけ教えたんだ俺も連れていきやがれ」
「クソ連れていきたくなくねー。でも同郷の好みだ、俺やアリスにこれから関わらないのなら連れて行ってやる」
「いいぜ。体も一緒に頼むぜ」
「しょうがない奴だな。アリス手を」
スッとアリスに手を差し伸べる。
アリスは一瞬、躊躇ったがしっかりと手を取ってくれた。
ついでにウツツの頭部にも手を乗せる。
今ウツツの頭部は体の切断面の上にあるが、これ体にも触ってる判定あるよね?
「それじゃ行くぜ。ルードラ」
しかし何も起きない。
何が「行くぜ」だよ。絶対今の俺、顔が真っ赤だ。
「お前ほんとダセー奴だな」
「うるせーばーか」
俺とウツツが言い合っていると横でアリスが「ルードラ」と小さく呟いた。その瞬間視界が暗くなり、次に目が見えるようになった時目の前には海が広がっていた。
「ここはどこなんだ」
チラッとアリスの方を見た。
「プライベートビーチです。ここなら人がいない気がして。別荘も近くにありますよ」
「やっぱ頼れるのはクソ雑魚のヤーナツじゃなくてチートの化け物様だよなぁ」
コイツなんてムカつく奴なんだ。その時俺はあることに気づく。
「あーあお前、俺やアリスの事、馬鹿にしたりするからそんな天罰が下るんだ」
「は?お前何言ってんだ。て、!無い!俺の体が無い!お前何故体を持って来なかった!」
「何言ってんだ、これは天罰だ。これに懲りたら悪魔団なんてカッコ悪い組織抜けて善良に生きていくんだな」
「くそぉぉぉ」とウツツの叫びが夜空に響いた。
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