第14話

 まるで自然現象のようにポツンと薄暗い場所で生まれた。背中には黒い翼が生えていたからすぐに人間じゃないと理解できた。

 人に捕らえられ羽をむしられ奴隷のように扱われた。ある時ここが、よく知るゲームの世界だと知り知識を活かして人を殺した。何の抵抗感も無かった。

 一人彷徨い死にそうな所、悪魔の姫に救われた。死に際になってあの時の姫の顔が浮かぶ。




 ウツツの頭が地面に転がる。黒剣もサーっと消えていく。

 これで流石に終わりだよな?アリスは大丈夫だろうか?


「まさかヤーナツ風情に殺されるとはな」


 びっくりしたー。急に生首がしゃべるんだもんなー。


「もしかして死なない?」


 声がでるようになってる。


「いや、時期に死ぬさ。お前この乙女ゲーのクリア後、プレイしてないだろ」


 乙女ゲーにクリア後なんてあるんだ。初めて知った。


「残念、クリア後どころか例の乙女ゲーすらしたことがない」


「そんな奴に殺されるとはな。忠告しといてやるよ。あんまり転生者を信用しすぎんな」


「お前みたいな奴もいるしな肝に銘じておくよ」


「遺言も聞いてくれ。姫に、レーヴェルに会ったらあの時助けてくれてありがとう、て伝えてくれ。約束守れなくてすまんって」


「分かった、伝えておくよ。でもできれば死んでほしくないや。仕方なかったとはいえ人殺しになるのは嫌だからな」


 仕方ないという言葉を使って自分を正当化するのもよくないな。


「安心しろ。俺はまじで人じゃねぇ。だから人殺しにはなんねぇ」


「いやお前は正真正銘、人だよ。それは俺とお前が一番よく分かってるはずだ」


「…違いねぇ、俺は人だ。もう一つ遺言ができちまった。姫に俺の本当の名前を伝えてくれ。俺の名前はメイ、サトウメイだ」


 女の子だったのか。

 俺は「伝えとく」と即答した。


「なんだか死ぬのが急に怖くなってきたぜ。なぁ家族に会えるように祈っといてくれないか」


「全力で祈るよ。流れ星に願ってやってもいい」


 ウツツは「ありがとう」と言うとそっと目を閉じた。

 死んでまったのか?俺を殺しにきた相手なのになんだか憂鬱な気分になる。まさか人の生き死に俺が直接関わるなんて。

 クヨクヨしてられないアリスが心配だ。


「すまん、ちょっといいか」


 アリスのもとへ向かう途中後ろから声をかけられた。

 なんだなんだと振り返ればウツツがパチリと目を開け俺を見ていた。


「なんか全然死ぬ気しねーから体持ってきてくんね。くっつくか試す」


「は?!それじゃあさっきのやり取り全部茶番じゃん。なんか恥ずかしくなってきたよ」


「首を切られた時、走馬灯が見えちまったんだがなぁ、全く死ぬ気がしねーぜ。ほらさっさと俺の体持ってこい」


「ごめん普通に言うけど、とっととくたばれ」


 コイツ生きてたらまた命狙われるよな?今のうちに絶対殺した方がいいよな。殺しは嫌だって言ったけど、死ぬのはもっと嫌だ。


「お前さっき死んでほしくないって言ってたじゃねーかよ」


「お前が確実に死ぬと思っていたから同情的な事を言ったんだろうな、うん。でもお前が生きてるとなると話は別だ」


「お前サイテーな奴じゃねぇか」


「いやよく考えろ。お前みたいな危ない奴に目をつけられたら夜も怖くて眠れねーよ」


「気持ちは分かるぜ。喋る生首なんてこえーからな」


 そう言う事じゃねー。

 コイツ、フレンドリーに接する事で俺を懐柔して体を取って来させようとしてるだろその手には乗らんからな。


「アリスが心配だからアリスのところに行く。じゃーな」


「ちょっと待て、実はなぁ俺、両性具有って奴なんだ。気になるだろ、体持ってきてくれたら下見せてやってもいいぜ」


 え、ちょっと気になるかも。いや駄目だ駄目だ。気をしっかり持つんだ。

 煩悩を振り払うように首を振り、アリスに駆け寄った。


「遅くなってごめん。大丈夫か、アリス」


 アリスはぺたん、と女の子座りで座っていた。


「大丈夫です」


 口からの吐血はもう止まっていたがめちゃくちゃ辛そうだ。


「人の姿に戻れそうか」


「…私、しっかりと化け物でした」


 自分の体を隠すように髪で体を覆う。心なしか髪も元気が無さそうだ。


「そうだな、脅しのネタがもう一つ増えたな。今日みたいに俺のこと守ってくれ。そうすればアリスの秘密、話さないだけじゃなくて隠し通すよ」


「増えたって言うのはおかしいです。だって私悪魔じゃなかったんですから」


「確かに。すり替わった、て言うべきだったかな?」


 この子脅されてる自覚があるのかなぁ?まぁ変に萎縮されるよりはいいか。


「肩貸すよ。人に戻れそうなら早く戻って傷を診てもらおう」


「戻り方分からないです。肩も貸さなくて大丈夫です。その…恥ずかしいので」


 あれそういえば何故かアリス、全裸だ。

 ジャケットを脱ぐ。


「これ貸すよ。血で濡れてるけど」


「ありがとうございます。そのヤーナツ君は大丈夫ですか?」


「正直めっちゃ痛い。特に顔と肩。足とかやられてなくて良かった」


 それを聞くとアリスは俺の両頬にぷにっと手を当てた。人の手より少し大きい気がする。それに爪が長い。

 何をするつもりだろうか。

 顔中が暖かくなってくる。どんどん痛みが引き目の上の腫れも引く。


「おぉすげー。ありがとう」


「ごめんなさい、勝手に触っちゃって。手、気持ち悪かったですよね」


「いや全然。その手に感謝のキスをあげたいぐらいだね」


 俺のキスなんかいらないだろうけど。ていうか兄の婚約者に何言ってんだ。俺キモすぎ。


「か、肩も治しますね」


 反応に困ったアリスはすぐさま肩の治療を始めた。

 なんか可愛い。

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