第13話

「やっぱお前も同類か、知らねーふりしやがって。つまりお前を操ってた奴なんて最初からいなかったわけだ。これがどう言うことかわかるよな。もうお前を殺せるってことだよ!」


 ウツツは勘違いをしている。何故か転生者をゲームプレイヤーだと。この世界のことについて何も知らないと言ってもよかったがそれをしても多少の延命になるだけだ。死ねば覚める夢オチに賭けて潔く死のうじゃないか。

 死を覚悟した直前、ウツツの背中に何かが直撃し爆発が起こる。


「助かったよアリス。まだアイテムの隠し場所も吐かせてないのに殺しちまうとこだった」


 ウツツがゆらりと振り返る。その視線の先には、アリスがいた。


「アリス!アリスだ!やっぱ俺死にたくねーよ。頼む助けてくれ」


 嬉し涙を流しながら情けなく懇願した。途中で魔法をかけられてしまい再度声が出なくなる。

 もしかしたら助かるかも知れない。嬉しくて嬉しくて涙が止まらねーや。でもちょっと待てよ、流石に一人で来てないよな。


「アリス、もしかして今の話聞いちまったか?その割には動揺してなさそうだが」


「ヤーナツ君から離れて下さい」


「チッ。めんどくせーな。危ねぇからお前が離れてろ。あぁ、危ねぇって言うのはアリスを心配して言ったわけじゃねー。お前が危険物だから言った言葉だ」


「…私は危険物なんかじゃない。ちゃんと母と血のつながりがあります」


 ウツツ、まだ言ってんのか。アリスちょっと泣きそうじゃないか。

 あれちょっと待ってよ。なんか体がちょっと動くかも。元となったゲームの状態異常は永続じゃなくてターン制ってことか。


「闇属性魔法に血の繋がりを見出してるんだろうが、いい事を教えてやるよ。悪魔は闇属性魔法を使える代わりに回復魔法が使えねーんだよ。お前はどうだ?使えるだろ。どっちの魔法も。理由は単純、お前は悪魔じゃなく化け物だからだよ。この世のルールに反した外の存在。実感が湧かないか?なら帰って両親に聞くといい血の繋がりがあるかどうか。ほらさっさと行け」


 シッシッと追い払うようなジェスチャーをするウツツの背中に目掛けてドロップキックをする。しかもアリスの魔法で怪我を負ってる痛そうな所をピンポイントに狙って。が、びくともしない。まるで岩を蹴ってるような感覚だ。もしかして俺の攻撃力低すぎる?


「ち、マジでめんどくせーなぁ。手足もいどくか」


「ファイアーラ!」


 アリスが呪文を唱えると更にウツツに魔法が打ち込まれ直撃する。ウツツの体からは煙が出ている。


「回復魔法が使えないのならここはもう引いて下さい」


「回復魔法は使えないが回復する手段は別にあるんだぜ。ブラックスワン」


 突然、俺の真横に黒いモヤがかかった文字通りブラックスワンが現れ、めちゃくちゃ怖かったから急いでアリスのそばに駆け寄った。


「ヤーナツ君、今のうちに!」


 二人して振り返り逃げようとしたその時、アリスの胸から黒いモヤのかかった鋭いものが突き出てきた。


「ダークホース」


 アリスの背中にはモヤがかった黒い馬がピタリと頭をつけていた。役目を果たしたからかそのままスゥーと消えアリスは吐血し地面に倒れる。

 声こそ出なかったが何度もアリスの名前を叫び揺すった。まだ浅く呼吸がある、助かるかも知れない。


「悪いなアリス。めんどくせーから経験値になってもらうことにしたわ」


 傷一つなくなったウツツが近づいてくる。手には黒い羽根のような物が集まり黒剣が形成される。


「お前のせいで計画が狂っちまったよ。その分たっぷりいたぶってやるからな」


 俺はアリスを置いて逃げた。途中挫け、四足歩行になりながらも必死に逃げた。出来るだけアリスと距離を取るように。俺に出来ることはそれだけだった。

 アリスは回復魔法が使えると言っていた。アリスは死なずに済むかも知れない。

 まさか死の淵に立っていると言うのに今日会ったばかりの子の為に動くとは、俺って最高にイケメンなんじゃないだろうか。

 目の前に誰かが降り立ってくる。顔を上げるとウツツがいた。


「バーインドだと吹っ飛ぶから木に打ちつけちまうか」


 俺の首を絞めるように掴むと木に叩きつけた。そのまま持っていた黒剣で俺の肩を刺すと、貫通させ木に固定させられる。

 沈黙魔法で苦悶の声すら出てこない。


「それじゃあ今から痛ぶるからアイテムの場所でも言いたくなったら手でもあげろな」


 そう言ってウツツは右手を大きく振りかぶったが、突然真横へ吹っ飛んでいく。

アイクの真正面から誰かが歩いてくる。

まさか援軍か?

 姿を現したのは、青い肌の人間のような生物。人間で言う髪の毛の部分は艶やかな濃い青色の膜のようなものになっており体の左右、後ろを覆うように生えていた。でこの左側から先の丸いツノも生えていた。

 あれもしかしてアリスか?

 化け物って言うからどんなもんかと思ってみれば可愛らしいモンスターっ娘じゃないか。


「まさか死がトリガーだったとはなぁ。これじゃストーリーを完遂させようと計画してた俺が馬鹿みてぇじゃねぇか。おい人間の状態に戻れんのか。というか大分姿が違うじゃねーか、今はまだ完全体いや成熟期、てとこか。おい聞いてんのか。まさか自我がないのか」


 吹っ飛ばされたウツツが戻ってくる。

 ウツツの言い方から察するにやっぱりこのモン娘がアリスなんだ。

 アリスの膜の髪が裂けるように何本にも分かれそのうちの一本がウツツに襲いかかる。


「ブラックシープ」


 ウツツの横に黒い羊が現れてアリスの攻撃がその羊に当たる。

 アリスは更に膜の髪でウツツに攻撃を加える。


「ルードラ」


 ウツツは一瞬で消えアリスの背後に現れるが、アリスは反応しウツツを膜の髪で吹き飛ばす。

 圧倒的だった。ウツツが何をしても一瞬で掻き消しその数秒後には膝をつかせている。回復する隙も与えず何度も何度もウツツを攻撃する。やがて攻撃は止み、地面には倒れ伏したウツツがいた。

 今が逃げるチャンスじゃないだろうか。

 しかし、ゆっくりとウツツが立ち上がる。


「その強さならオレを簡単に殺せたはずだ。なのに殺さないってことは、アリスお前自我があるだろ。お前殺しをしたくねーんだな。そこで提案だ俺の魔力が尽きるまで攻撃に耐えることができたら素直に引いてやるよ」


「本当ですか」


 今まで口を閉ざしていたアリスが喋る。


「それは乗った、てことでいいな。それじゃあ始めるぜ。ブラックジャック」


 ウツツの髪の色が右側が黒、左側が白ではっきり分かれる。


「混沌魔法カオラスス」


 ウツツが更に呪文を唱えたが、何も起こらなかった。だが何も起きていないはずなのに何故かとてつもなく気分が悪くなる。

 それはアリスも同じようだった。アリスはその場で縮こまると膜で自分を覆う。俺なんか比じゃないぐらい調子が悪そうだ。


「流石だな。耐えられちまいそうだ」


 ウツツが言った途端コロッコロッと鈴の音がなり響く。どこから現れたのか一匹の黒猫が鈴を鳴らしながらがアリスの前を横切る。

その瞬間アリスが口から血を吐いた。


「黒猫を見ちまったか。運がねーなぁアリス。悪いが経験値貰っていくぜ」


 ゴホゴホッと血を撒き散らしながら咳き込むアリス。このままでは死んでしまう。そう思った時、俺は肩に刺さった剣の刃の部分を両手で掴み思いっきり引き抜こうとした。

 アホほど痛くてバカほど叫んだ。だけど声は出ない。これはちょうどいいや。

 無声で叫びながら腕に力を込める。徐々に徐々に剣が動き始め、そして抜ける。抜けた勢いで前に倒れてしまったが、すぐに立ち上がり黒剣を拾い上げ走り出した。

 気分が悪い、足がフラフラになる、それでも一心不乱に目標に向かって走った。

 ウツツは俺に気付いてない俺がやるしかない。

 いつの間にか足取りは、しっかりしたものになっていた。そしてウツツの背後につくとその首目掛けて剣を振った。

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