第12話

 目の前で突然、ヤーナツ君とウツツさんは消えた。見たことの魔法だった。

 彼らが何処に行ったか、特定する事はできたが一人で行くよりも父に知らせたほうがいいと思い至り、急いでパーティー会場に向かった。

 パーティー会場で楽しく談笑をしている父の腕を引っ張り二人きりになれる場所まで移動した。


「アリス何をするんだ。せっかくお越しいただいたのに失礼じゃないか。それとラウド君が心配してたぞ。何処に行ってたんだ」


「お父様、聞いてください。ヤーナツ君が悪魔団に攫われてしまいました」


 父はカッと目を見開き私の両肩を掴んだ。


「何だって!どう言うことだ。なぜ悪魔団がここに。なぜアリスじゃなくてヤーナツ君を。どうなってるんだアリス説明してくれ」


「ヤーナツ君は私の事を知っていました。それが原因かも知れません」


「私の事って、あの事か?!そうなんだな」


 小さく頷いた。

 父は私の肩から手を離すと、どうしたものかと顔を手を当てた。


「護衛と馬車を用意させる。いいかい護衛が来るまでパーティー会場から出ては駄目だよ」


「お父様は…」


「サンザンベル家の方々とお話をしてくる。それが終わったら、すぐに戻ってくる。お母さんを見つけたら一緒に帰るよう声をかけなさい。でもお母さんにこの事を言っては駄目だよ。いいね」


「はい」


 父は私の頭をポンポンと軽く叩くとサンザンベル家のもとへ向かった。

 私は嫌な予感がし父の後をつけ物陰からこっそり話を聞くことにした。


「ヤーナツ君が悪魔団に攫われました」


「悪魔団って、あの悪魔団ですか!なぜあの子が」


 サンザンベル家はヤーナツ君を除いた全員が揃っており、まずお義母様が驚いた様子で口を開いた。


「理由は不明です。すぐに兵を出したいのですが、相手はあの悪魔団です。闇属性魔法は夜になると強くなる物もあると聞きます。数も分かりませんし、暗闇に乗じて卑怯な手を使ってくるかも知れません。ですので明け方…」


 やっぱり父はヤーナツ君を見殺しにする気だ。私の秘密を守る為に。


「構いません。なんなら明け方と言わず、万全に準備を整えてからでも構いません。兵の命も尊い命です。あの子の事でその命散らすなど、我慢なりませんからな」


 お義父様も見捨てるつもりだ。まさかこれほど嫌われてるとは。お義母様もラウド様も下を俯き、何も言わない。

 ここで私がヤーナツ君を助けるよう懇願したらどうなるだろう。きっと迎えが来るまで軟禁されるだけだ。

 私が行くしかない。私のせいで誰かが死ぬのは嫌だ。何より、ヤーナツ君が死ねばこれまで通りという考えがよぎる自分が嫌だった。そんな利己的な考え、まるで悪魔みたいだ。せめて心は人らしくありたい。だから駆け出した。

 悪魔の力なのか、集中すれば魔力量が多い人の居場所を特定する事ができた。ここからそう遠くはない。

 走りづらいスカートをたくし上げ、強化魔法も使い急いでヤーナツ君の所まで向かった。

 だんだん近づいてくる。ここからは隙をついてヤーナツ君を逃す為、物音を立てず接近する。

 ウツツさんの後ろ姿を捉える。地べたにはヤーナツ君が顔中血だらけで倒れていた。

早く助けないと。


「───な悪魔の姫様と結ばれたいんだ。その為に出された条件が人を滅ぼすことだ。そこで俺は人を滅ぼす為にアリスを使うことにしたんだ」


 ウツツの声が聞こえてくる。

 早く助けないといけないのにウツツの言ってることがどうしても気になった。

 私を使って人を滅ぼす?意味が不明だった。

 どうやらヤーナツ君も誰かに利用されて私に接触したようだ。一体私がなんだと言うのだろうか。ただの悪魔ではないのだろうか。

これ以上は聞かない方がいいそんな気がした。けど何もできなかった。その場でじっと立ちすくむことしかできなかった。どうしてもウツツさんの言うことが気になったから。


「お前も変なことに首を突っ込んだな。せっかくだ、最後まで教えてやるよ。アリスが何なのか。いいかよく聞け、この人類を滅ぼせる程の巨大な力を持ったアリスの正体はな、人でも悪魔でもねぇそもそもこの世界の生き物ですらねぇ、アリスはなぁダンジョンの外からやってきた得体の知れねぇ化け物なんだよ!」


 心臓が一際大きく跳ね上がる。

 そんなのは絶対に嘘だ。だって私は悪魔の血が流れる母から悪魔として生まれたのだから少なくとも母とは血の繋がりがあるはずだ。

 それでも頭は混乱した。なぜ私が化け物と言われなきゃならないのだろうか。悪魔と呼ばれ化け物と言われもう懲り懲りだ。

 誰もいないところに行きたい。そうすれば人も悪魔も化け物も関係ない。そんな言葉を投げかけられる事もない。父と母に迷惑をかける事もない。

 突然笑い声が響いた。よく見ればヤーナツが血まみれな顔で笑っていた。


「お前、身の丈に合ってない巨大な力を手に入れて浮かれてんな。ガキかよ。好きな子に『人類滅ぼしてー』て頼まれて『分かったその代わり達成できたら結婚しよう』て童貞かよ。お前こそビッチに利用されてるだけじゃねーか。悪魔団、てなんだよチープな名前しやがって。お前まさかだけど自分の事、悪魔だって思ってないよなごっこ遊びしてるだけだよな?それはそれで恥ずかしいけど。そもそもアリスの事、化け物って言うけどさ、それじゃ俺やお前だってこの世界の外から来た化け物じゃねーか」


 途中何度か殴られながらも彼は続けた。


「いいか勘違い大馬鹿野郎のお前にはっきり言ってやるよ。お前も俺もそしてアリスも人間なんだよ。悪魔でもねーしバケモンでもねー馬鹿みたいに弱い人間なんだよ。お前だって心当たりがあるだろ弱かった頃の向こうの自分に。ママによく泣きついてたんじゃないのか。なのに巨大な力を手にした途端態度がでかくなりやがって、人様をバケモンよばわりすんじゃねー!普通に傷つくんだよ!謝れ。アリスに謝れ。今から行ってすみません陰口叩いてましたって謝りに行け。ついでに俺にも謝れ馬鹿野郎。顔面百発で許してやるよ」


 この人を守らないと。

 何故か心が奮い立った。

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