第11話

「お前転生者か?もしかしてお前か、墓場の不思議な道具袋や切れないミサンガを取ったのは」


 ビシビシと敵意のようなものを感じ身が硬直する。日本じゃ滅多に経験することのない恐怖。

 なんだコイツ。コイツも転生者か?


「無視すんじゃねーよ!」


 急な大声に体がビクッと反応してしまう。


「やめて下さい。ウツツさん」


 アリスが俺を庇うように一歩前に出た。どうやら知り合いのようだ。


「アリス一応お前のことを思っての行動なんだがな。コイツがいない方がアリスにとってもいいだろ」


「…あなたの顔は割れてます。何もせずすぐに立ち去るべきです」


「ピンチの姫様を救いに来た王子様に立ち去れとはひでーなぁアリス。けどな立ち去る訳にはいかねぇんだ。少々コイツに用があるんだわ」


 ウツツと呼ばれた男が俺の前に立つ。


「やめて下さい。彼を傷つけないで下さい」


「向こう行ってろアリス」


 そう言ってアリスの肩を勢い良く手で押した。アリスは何歩か後ずさるとドッと尻餅を付いた。

 助けを、誰か助けを呼ばなくては。

 大きく息を吸い声を張り上げた。


「誰か──「ザイレント」──!?」


 声が出ない?何らかの魔法をかけられた?

 ウツツが胸ぐらを掴んでくる。


「次ふざけた真似してみろ、ぶち殺すからな」


 そのまま鳩尾に一発、膝をお見舞いされる。

 腹を抑えうずくまる。

 いてー、とんでもなくいてー。俺の体が貧弱だからか?細身な体ではありえない凄まじい威力だ。

 幸い、ウツツの魔法のおかげで情けない嗚咽をアリスに聞かれる事はなかった。


「ウツツさんそこまでです。もし退かないようなら攻撃します」


 アリスは両手をこちらに向けていた。


「めんどくさーな。いいから向こう行ってろ。そしたら暴露に怯えないで毎日を過ごせるぞ」


「…ヤーナツ君から離れて下さい」


「チッ。分かったよ、んじゃ離れるとしますかね」


 そう言うとうずくまる俺の頭に足を乗せた。


「ルードラ」


 ウツツが呪文のような言葉を発すると視界が急に暗転した。次に視界が開けた時、そこは先程とはまるで違う場所だった。



「すげーだろ。ダンジョン脱出魔法を改良して編み出した転移魔法だ。俺が一人で編み出したんだぜ。まだ回数と距離に問題があるがいずれそれも解決してみせる。なぁお前にできるか、ヤーナツとかいうクソ雑魚に転生したお前に」


 ウツツは意気揚々と語り出した。その際足を退けてくれたので立ち上がる。

 ここは何処なんだ?森の中みたいだけどパーティー会場は近いのか?走ってウツツから逃げ切れるか?いや無理だ。絶対に体力が続かない。声を出すことだってできない、どうすればいいんだ。


「おい、お前聞いてんのかよ?あぁ俺が魔法をかけてんだったな。今解除してやんよ、ただ誰かに助けを求めたりはすんなよ。まじでぶち殺すからな」


 解除をしたようには感じられなかったけど、もしかして今しゃべれるのか?


「あんた何なんだ」


 声が出る。


「質問は一切受け付けてねーよ。お前は黙って俺の質問に答えていればいい。まずは一つ目だ。不思議な道具袋は持っているか?」


「持ってない。それが何なのか分からない」


「嘘つくんじゃねーよ」と言って右の頬を思いっきりぶん殴られ後ろに吹っ飛ぶ。

痛すぎる。拳が速くて反応どころか目で捉えることすらできねー。


「吹っ飛ぶんじゃねーよ。めんどくせーなぁ。早く立て。ほら立て!!」


 気圧されるがままに立つ。


「バーインド」


 ウツツがそう唱えると体が一切動かなくなる。


「これで殴っても吹っ飛ばなくなったな」


 そう言ってもう一発殴ってくる。体を硬直させたまま勢い良く後ろに吹っ飛ぶ。


「結局吹っ飛ぶのかよ。めんどくせーなぁ」


「ま、待ってくれ。道具袋とかいう奴を俺は知らない。本当だ。だからもう殴らないで」


 口から血を垂らしながらも必死に懇願した。


「だろうな。流石にお前、転生者にしては対策をしなさすぎてる。いくらヤーナツといえどもう少しやりようはあるはずだ」


 分かってくれたのか?このまま転生者じゃないフリをしてれば解放してもらえるかもしれない。


「何を言ってるんだ?俺をもう解放してくれ」


「するわけねぇだろ。お前にはまだ聞きたいことがある。お前、アリスが悪魔だって誰に聞いた。お前の性格に影響を与える程身近な存在だ。親か?それとも兄か?もしかしたらゲームキャラには転生しないのかも知れねー。そうすると使用人、てところか」


 もしコイツにリアの事を話したらリアはどうなる。殺されるのか。それとも殺すのか?万が一、穏便に事が済むなんて事はあり得るだろうか。


「おせーよ」


 ウツツは拳を振り上げた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。話す、話すから。その前に目的を教えてくれ。俺からその情報を聞いて何をするんだ」


 ちょっとでも時間を稼いで人が来ることに賭けるんだ。


「質問は受け付けねー、て言いたいところだが面白い話をしてやろう。俺はな悪魔の姫様と結ばれたいんだ。その為に出された条件が人を滅ぼすことだ。そこで俺は人を滅ぼす為にアリスを使うことにしたんだ」


「正気じゃない」


 コイツ転生者じゃないのか?何でこんなに好戦的なんだ。それにアリスを使うって何だ。


「まぁ聞いてろ。お前は誰かからアリスの事を聞いたんだろうが、そいつはお前にある重大な事を話していない。お前は利用されたんだよ。俺たち悪魔団もいるし、自分でアリスに接触するのがこわかったんだろうなぁ、だからお前を仕向けた。どうだお前を騙した奴の事話す気になったか?」


「話せば俺は殺されずに済むか?」


「いやお前は殺す。苦しむか苦しまないかそれだけの差だけ」


 はなから殺す気でいたから人を滅ぼすなんて計画を話したんだな。殺されるのが怖くて怖くてたまらなかったが、それと同時に怒りが湧いてきた。

 たかだか画面の前でゲームしてただけの一般人が、大それた計画立てやがって。ヤーナツ君の体を今すぐ渡したいぜ。そんな考え一瞬で吹き飛んで、この世界をどうやって生き抜くかばかり考えるようになるから。

 怒りと悲しみで体がプルプル震える。


「お前も変なことに首を突っ込んだな。せっかくだ、最後まで教えてやるよ。アリスが何なのか。いいかよく聞け、この人類を滅ぼせる程の巨大な力を持ったアリスの正体はな、人でも悪魔でもねぇそもそもこの世界の生き物ですらねぇ、アリスはなぁダンジョンの外からやってきた得体の知れねぇ化け物なんだよ!」


 そう言えば俺もクラスの子に一時期化け物って言われてたな。給食の食べ残しが汚すぎるから化け物が食った後みたい、て理由だったけ。いじめってわけじゃなかったんだけど当時はちょっと悲しかったのを覚えてる。

 その時俺の中で何かがぶちぎれた。

 どうせ死ぬならこのイタイタしいやつに言うだけ言って死んでやる。逆上させてリアの事も話さず一瞬で殺されてやるぜ。実質勝ち逃げだ。

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