第9話
パーティー会場前に着くとワード一家は今回の主催であるアリス一家に挨拶をしてくると言い俺は一人取り残された。
今から俺は何をすればいいんだろうか。とりあえず俺も挨拶に行くべきだろうか?それとももう会場に入ってしまっていいんだろうか?
今回リアはいない。自分で考えて動かなければ。
辺りを見回し一応サンザンベル家を探して見たがどこにも見当たらない。
どうしよマジで何したらいいかわからん。
「恥さらしのヤーナツをこの場に連れてくるとはサンザンベル家当主は何を考えてるんだ」
途方に暮れる俺に一人の男が話しかけてきた。
同い年ぐらいだろうか。俺同様とんでもなく礼服が似合っていない。しかも七三分けだ。
ていうか誰だこの子。知り合いか?
「お前のような何をしでかすか分からん奴閉じ込めておけばいいのに。おいお前聞いてるのか」
「悪い、今考え事してて。また後にしてもらえないか」
敬語の方が良かったか?いやここは悪ガキらしく敬語はつかわないでおこう。
「な、なんだとお前。せっかくこの僕が話しかけてやったというのに。お前に話しかける奴など誰もおらんぞ。寂しい思いをしても知らんからな」
そう言って会場とは別方向に歩き出したが、踵を返してまた戻ってきた。
「どしたん。急に戻ってきて」
「ち、父上を待っているのだ」
恥ずかしかったのか、七三分けの頬はほんのり赤く染まっていた。
この子もしかしたら一人で心細くて俺に話しかけたのかもしれない。どうせなら一緒に会場入りしてみよう。
「なぁ、一緒にパーティー会場に入らないか?」
「なんだ、一人じゃ心細いのか。しょうがない奴だ。この僕が一緒に行ってやる」
夜中一人でトイレに行くのが怖くて兄についてきてもらっている気分だ。それで本当は兄も怖いのに『世話が焼ける奴だぜ』とか言って便乗して一緒にトイレを済ませるパターンだ。
懐かしいぜ。お兄ちゃん元気にしてるかな?
そんな事はさておき二人して会場の扉の前まで行き立ち止まる。
「おいお前先行けよ」
七三分けが肘で小突いてくる。
「いやじゃんけんで決めよう」
「そんな恥ずかしいことできる分けないだろ」
「じゃあシチサンが先行ってよ。俺の提案却下したんだから。じゃないと駄々こねる」
「お前本当にしょうもない奴だな。ちゃんとついてこいよ。絶対についてこいよ」
名前にツッコミなしってもしかして当たったのか?この子の名前シチサンなのか?
俺がびっくり仰天してる間、シチサンはテクテクと会場に入っていく。距離を離されないよう俺もついていった。
「おぉやってんなー」
パーティーを楽しむ人たちを見てシチサンは今にも踊り出しそうなほどウキウキだ。
それも無理はない、会場の中央には流れてる音楽に合わせ踊る何組かの男女、グラスを持って談笑する人たちは皆、華々しくどこか気品を感じられる。
何より心引くのはその豪勢な食卓だ。肉に魚にデザートなんでもござれだ。
今すぐにでも飛びつきたい。
「シチサンせっかくだし飯食い行こうぜ」
「そうだなまずは腹ごしらえ。その後ナンパと行こう。おっと婚約者がいるお前の前でこんなこと言うのは酷だったかな」
なんてませたガキだ。
「いいから行こうぜ」
テーブルの脇に置かれていた取り皿とフォークを手に取り取り皿に肉や魚を盛り付けていく。それをフォークでぶっ刺し口に運ぶ。
「うめー。めちゃくちゃうめーよ」
ヤーナツになってから朝と夜しか食事は摂っておらずその量も腹を満たすほどでもない。もちろん間食もなしだ。だからなのか、美味しい料理を腹一杯食える幸せが身に染みる。
「お前恥ずかしいからもっと落ち着いて静かに食えよ」
「そんな事言ったってこれめちゃ美味しいよ。シチサンも食ってみ」
ホントかよと疑いの眼差しで俺を見ながら肉を口に運ぶ。
「う、うめーなんだこれ。やっぱワンランド家お抱えのシェフは一味違うってか」
そこはホンマや、て言って欲しかった。
ついでにワンランド家とはアリス一家の事だ。
俺とシチサンは二人並び、ガツガツと飯を食らう。そんな俺たちの後ろに一人の大男が現れシチサンの首根っこを掴んだ。
「お前乞食のようなみっともない真似はするな」
「ち、父上!?」
シチサンの父は俺の方をチラリと見た。
「友達は選べといつも言ってるだろ。自分の価値を下げることになるぞ」
「父上、首を掴むのをやめてください」
「黙ってろ」
そのままシチサンは引き摺られ何処かへ連れてかれてく。
一人だと急に心細くなってくる。取り皿に盛れるだけ肉を盛って会場の隅に移動した。
肉を食べながら中央で踊ってる人たちを見ると、兄と前髪の長い白髪の女の人が踊っていた。多分あれが兄の婚約者であり、チートキャラであるアリスだ。
ステップで揺れる前髪の隙間から妖しく輝く紅い瞳がとても印象的だ。
リアが言うには悪魔っぽい要素を隠すために前髪で目を隠しているらしい。だけど紅い瞳と悪魔に関係性は全くないらしい。
兄とアリスはひとしきり踊ると中央のダンスホールから離れテラスへと消えていった。その後兄が再び会場内に入ってくる。
今が守ってもらうようお願いするチャンスではないだろうか?
急ぎ足でアリスのいるテラスに向かった。
「よっ。こんばんわ」
「ヤーナツ君ですよね?ど、どうしたんですか?」
明らかに警戒されてる。
「君に頼みがあってね。俺の事守って欲しいんだ」
単刀直入すぎたか。でも同い年ぐらいの子に守ってくれなんてよく考えたらどう切り出していいか分からないし単刀直入ぐらいでいいか。
「誰かを守れる程私、強くないです。違う人に頼んだ方がいいですよ」
「いや君は強い。それもかなり。だからできれば君が俺の事を守ってくれるとありがたい」
リアがチートと言うほどの子だ。弱いはずがない。
「なんで私が強いと思うの?もしかして、もしかしてだけどヤーナツ君、私について何か知ってるんですか?」
小刻みに震え出したアリスは天に祈るように両手を握り合わせた。
なんか俺めちゃくちゃ怖がらせてね。乙女ゲーでいうところの選択肢ミスった?
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