第4話 リア視点

 翌朝。全くフリフリ感も露出も無い本場のメイド服を着た私はヤーナツの部屋の扉をコンコンと叩いた。片手には食事が乗ったトレイを持っていた。

 中から「どうぞ」と気怠げな声が聞こえたので部屋に入る。部屋の中にはただでさえ目つきが悪くかっこよくも無いのに目元が浮腫んでるせいでさらにひどい顔になった男がいた。


「あなたずいぶん泣いたわね」


 「うん」とヤーナツは寝ぼけ眼を擦った。


「ほらごはんよ」


 テーブルがないのでベットの上に置く。

 ヤーナツは勢いよくフォーク手に取り食べ物にかじり付いた。


「めちゃくちゃうめー」


「それはどうも」


 自分が作った料理を美味しいと言ってくれるのは嬉しいものだ。ついでにメニューはベーコンにスクランブルエッグそれとパンというよく見るやつだ。


「あなた一昨日から行方不明だったらしいからね。さぞお腹も空いてるでしょ。たんとお食べ」


「ママやん」


「変なこと言うの辞めてくれない」


 全く失礼しちゃうわ。


「ていうかメイド服着てるんだね」


「実は奥様の御眼鏡に適ってね。正式にここで働ける事になったの」


 どうよと言わんばかりにすそを上げ見せつける。


「すげー。どうやって取り入ったん?今後役立つかもだから教えてくれ」


 メイド服の感想は無しかい。


「この世界、魔法が五十近くあるのよ。だけどそれら全てが戦闘やダンジョン攻略に関するものなの。だからなのかこの世界の人達は実生活で魔法を使わないわ。だから見せてあげたのよ水の攻撃魔法を応用した洗濯を。超音波も添えてね。そしたらもう大絶賛。一発採用てわけよ」


「さすがママだぜ。主婦の経験が生きてやがる」


「次言ったらこうだから」


 可愛らしく鬼のポーズを作る。


「イエスマム」


 敬礼するヤーナツに卍固めを決めたやった。ヤーナツがベットをタップしたので解放してあげる。


「まぁなんだかんだ元気そうで良かったわ。実はあなたにある情報を持ってきたの。今度アリスの母さんの誕生を祝うパーティーがあるの。多分あなたもそのパーティーに出る事になるわ」


「パーティーってダンスとかあるよね?きついかもしれん」


「大丈夫よ。悪ガキなんだからそれっぽく振る舞っとけば誰もあんたをダンスに誘わないわ。ノープログレムよ」


「それもそうだな」


 この感じこの子記憶喪失設定じゃなくヤーナツとして生きていく事にしたのね。


「なぁやっぱ俺さぁ自分の身は自分で守れるようにちょっとでも強くなっておきたいや。モンスターとか倒せばレベルが上がる?」


「やめといた方がいいわ。多分あなたじゃ死ぬだけよ。レベルなんてものがあるかどうかもわからないし」


 モンスター倒せば強くなっている実感は湧くが、いかんせんステータス画面というものがない。レベルという概念があるのか確信を得られない。


「マジか。地道に筋トレでもするか」


 この子なんだかやる気があるみたいだし、どうせだから実験でもしてみるか。ゲームとリアルでどれだけ違いがあるのかを。まずはスキルの取得と成長を試してみようかしら。


「一応戦闘以外にも強くなる方法はあるのよ。この世界の元となってるゲームにはスキルに熟練度というのがあるの。スキルを使えば使うだけ技にいろんな補正がかかっていくみたいな感じね。つまりあなたはカカシかなんかに永遠に技を振っていればちょっとは強くなっているって事よ」


「なるほどなぁ」とヤーナツは顎に手を当て何かを考え込む。


「どうしたの?何かあるなら聞いてきていいわよ」


「俺ってもうスキル持ってるのかな」


「持ってないんじゃない。ゲーム内でヤーナツと初めて戦った時殴るしかして来なかったもの」


「じゃあどうするん?」


「今からあなたに二つの剣術スキルを教えてあげるわ」


 これら二つは本来魔法職であるヤーナツが覚えるはずのないスキルだ。もし覚えるはずのないスキルをヤーナツが覚えることができたら夢が広がるというものだ。でも魔法の方がいいっていう反発が来たらどうしよう。


「よしどんとこい」


 良かった。


「ちなみにこの二つのスキルを熟練度マックスにできたら最強の剣術スキルを覚えることができるわ」


 それを聞いたヤーナツはうおぉぉぉとやる気をたぎらせていた。なんと単純なんだろうか。


「それともう一つ、仕事をサボってると思われたくないからあなたの命令で特訓に付き合ってる、て事にして欲しいの」


「分かった」

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