第3話
「それじゃあこれからよろしくね。私はリアよ」
リアはスッと手を前に出す。
「よろしく。俺はタケルだ」
差し出された手をギュッと握り返し握手をする。
「あなたはもうヤーナツなんだから向こうの名前は出さない方がいいわよ。ついふとした時に出るかもしれないし」
「なるほど。教えてくれてありがとう」
感謝の意を込め握手している手をブンブン上下にふった。リアは面倒くさそうにしていたが特に文句などは言ってこなかった。
「それじゃ今からあなたの家に案内するわね」
リアは握手していた手を離し後ろを振り返って歩き出した。俺もリアの背中を追って歩き出した。
林を抜けると割とすぐ近くに町があった。
「あれがあなたのお父さんが治める町よ」
「へー」と気の抜けた返事をする。
その町を一目見た時ふと思ったのはRPGに出てくるような町だなぁだった。
街の入り口、街の入り口には兵士がいたがリアも俺も特に止められる事なく通過できた。領主の息子だから当然なのだろうか。
街の中、舗装された道を歩いていると道行く人達が避けるように道を譲ってくれる。流石にどこか違和感を感じる。
「俺ってもしかして嫌われてる」
「それはもうとんでもなくね。だってあなた絵に書いた悪ガキだもの」
嫌われ者とは聞いていたがこれは大変そうだ。
「女の子三人から『良い人だけど』のフレーズを引き出したこの俺が悪ガキとはな」
「それ振られてるじゃない」
「な、なぜそれを!」
「文脈から大体わかるわよ」
他愛もないやり取りをしているうちに目的の場所につく。
塀に囲まれた巨大な屋敷。学校ぐらいの大きさはあるだろうか?流石に大きすぎないか。
「これ俺の家?」
「そうよ。早く入るわよ」
そう言って家の入り口まで案内してくれる。
案内された場所には俺の通っていた学校の校門にそっくりな門があった。唯一違いがあるとすれば門の開閉がスライド式ではなく押式なことだけだ。
扉を開け家の敷地内へと入る。入る際見知らぬ家だからか謎のドキドキ感があった。
「あれリアは入んないの」
「許可がないのに入るのは気がひけるわ」
「大丈夫大丈夫俺の友達って事で堂々としとけばいいよ。なにより一人じゃ心細い」
リアは「仕方ないわねぇ」と言うとツカツカと敷地内に入ってきた。そのまま二人して玄関の扉も開けて家に入った。
「ぼ、坊っちゃま!おかえりなさいませ。ご無事で何よりです」
玄関に入るとメイドがおり深々と頭を下げてくる。
「あ、うん。ただいま。あ、この人友達だから」
「ぼ、ぼ、ぼ、坊っちゃまが挨拶を?それに友達まで」
驚きのあまりメイドは腰を抜かし尻餅をつく。流石に大袈裟ではないだろうか。
一連のやり取りを見ていたリアがそっと顔を近付け小声で話しかけてくる。
「ちょっとはヤーナツのフリをしなさいよ」
「そんな事言われても俺ヤーナツって子がどんな感じか知らん。だから記憶喪失設定の方がいいんじゃね?」
「あなたに任せるわ」
なんて無責任な。
「おい俺の部屋まで案内しろ」
俺の想像の中のヤーナツが言いそうな事を腰を抜かすメイドに言った。
少しリアと話をする時間が欲しかった。
部屋に案内されてる途中、世界観に合ってないスーツ姿の男と対面する。
案内をしていたメイドはピタリと足を止め頭を下げる。
「あなたの父さんよ」
そう小声で告げた後リアも頭を下げた。
「お前生きていたのか。何処ぞでのたれ死んでくれて構わんのに」
もしかして今の俺に言ったのか?聞き間違いだよな。だって自分の息子だぞ?
「私の前に姿を出すな、それを心掛けよと言ったはずだ。そんな言いつけも守れんとはとことん何もできんゴミクズだな」
最後に父はリアの方をチラッと見ると「あまりこの子に関わるのはやめた方がいい」と忠告して立ち去ろうとした。
俺は込み上げてくる怒りを必死に抑えようとしたが、やっぱりできそうにないや。
「ちょっと待て」
「まさか私に口を聞いているのか」
父が足を止めにらめつけてくる。
「あなた何をする気落ち着きなさい」
リアは頭を下げたまま小声で静止してくる。
俺だって変な事はしない方がいいのはわかってるだけどヤーナツがなんだか不憫におもえたんだ。そしたらつい衝動的に父を呼び止めていた。
ここは落ち着け俺。
「コイツ、メイドとして働かせるから」
ヤーナツ、ぽく。冷静に。
「何様のつもりだ。そんな権利お前にあるはずないだろ」
「いやもう決めたから。行くぞ」
屋敷の廊下を再び歩き出した。
「せめて給料は自分で出せよ」
背後から言葉を投げかけられたが無視だ。
リアとメイドも父に「失礼します」と言うとついてきてくれる。ありがたい限りだ。
部屋の前に着くとメイドはそそくさと退散していった。
俺とリアはヤーナツの部屋に入った。部屋の中は狭くベットだけがポツンと置かれていた。
「肝が冷えたわ。あなたが何かやらかすんじゃないかって」
「ごめんヤーナツ君が可哀想でさ」
「仕方ないわよ。親に死んで欲しいと思われるくらい最低なクソガキなのよ。自業自得ってやつ」
どれほどクソガキでも親にあんな風に言われるのは可哀想だ。
「いろんな家庭があるんだな。少なくとも俺は家族には愛されていたと言い切れるくらいには家族に愛されていたよ」
家族との日々を思い出し目頭が熱くなってくる。
「幸せ者ね」
「うん。なんだか無性に家族に会いたいや。後めちゃくちゃ泣きたい。一人にしてもらうことってできるかな?」
「えぇ!この屋敷を一人でうろつけって言うの!」
「ごめん無理言った。じゃあ俺が泣くの見てて」
泣いた。一瞬で泣いた。人目も
こんなに泣いたのはいつぶりだろうか。
泣きすぎてリアが退室した事に気づかなかった。
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