とある村の記録-2

『アクセルは果樹の枝に首を吊った状態で見つかった。アクセルの遺体も裸だった。手は背中で縛られ、両足は膝を曲げた状態でそれぞれに括られていた。痣は散見されたが、シシーやラースよりは比較的に綺麗な状態だった。しかし、脱肛した肛門からは、今しがたまで性行為を受けていたように精液が滴り落ちていた。

 村はたちまち騒然とした。シシーとラースを無惨に殺したはずの人間は既に死んでいるのだ。アクセルまで似たような手口で殺されたということは、子どもらを殺したのは隣人かも知れない。彼らは余所者だからという理由だけで、無実だったかも知れない旅人を殺してしまったのだった。

 一一四七年、十一月三日。亡きシシーの家族が変わり果てた遺体で見つかる。全身が真っ黒になるほど腐敗し、爛れていた。前日はどんな異変もなかったにも関わらず、死後、数日が経過したような遺体の惨状に誰もが目を覆った。

 同日、夜。村の寄り合いの席でラースの父が血を吐いた。両目からも血の涙を流し始め、寄り合いは解散となった。

 一一四七年、十一月五日。亡きラースの一家全員の死亡が確認される。遺体の状況は亡きシシーの家族と全く同じだった。

 同日、昼。寄り合いの参加者の一人が耳から血を流し始める。同日、夜。彼の耳が真っ黒に染まって腐り落ちる。傷口から大量の蛆が零れ落ちる。

 翌、六日。寄り合い参加者全員に、身体が腐り始める症状が表われる。同日、午後。近くの村から豊穣の祭りの片付けを手伝いに数人が訪ねてきたため、奇病が出たことを申告し、町に伝えてもらう。

 十一月十日。死者と感染者が増え続ける。これまでのことから、感染者の血に触れないよう感染者の隔離を試みたが、子どもや老人が発症するのを止める手立てはなかった。夕方、ようやく町から医者と神父、兵士がやって来る。村中に腐乱死体が転がる惨状に、彼らは為す術もなく立ち尽くしていた。

 十一月十一日。医者は腐り落ちそうな患部に包帯を巻いて予防することしかできない。神父には死者のための祈祷を依頼し、兵士たちには死者の埋葬を依頼する。

 十一月十二日。町からやって来た医者と神父、兵士に病の兆候は見られず。村を出奔しようとした若者が瞬時に腐り果てて絶命し、これは病ではなく呪いであると神父が告げる。

 十一月十三日。生き残った住民たちで神に祈りを捧げる。無辜の命を奪ったことを懺悔している最中、彼らの腐敗は急速に進み、遂に血を吐いて首が落ちた。

 十一月十三日、夜。村の全滅を確認。

 十一月十四日、早朝。村一帯に火を放つ。以後、軍部の規定に沿って付近の立ち入りを禁止。村の名前を地図上から削除する。』
















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