村人の証言の覚え書き-2
アクセルが見つかったのは祭りの日の朝だった。奇しくもシシーの両親が大切に育てていた果樹園の木の枝にぶら下がって揺れていた。アクセルは縊り殺されていた。手を背中で、両足は膝を曲げた状態で縛られていた。顔と身体には幾つか痣が残っていたものの、シシーやラースと比べると綺麗なほうだった。アクセルの肛門からは桃色の中身が飛び出ていて、まだ生々しい精液が滴り落ちていた。
旅人は死んでしまったのだから、アクセルを殺したのは村の中の誰かということになる。旅人は本当に無実だったのかも知れない。
みんながそう気づいたときには何もかもが遅かった。
アクセルの死体が見つかってから三日後、まだきちんと葬儀も行えない中で、シシーの両親が死んでいるのが見つかった。前日、アクセルが首を吊っていた木をどうするかと首長や男たちと相談していたのに、次の日には身体中が真っ黒に爛れて腐っていた。
やがてラースの両親、シシーの祖父母、アクセルの両親と原因不明の病は広がっていった。病──そう表現するのもおかしいが、身体の一部がある日、突然に腐り始まって異臭を放ち、二日ともたずに手足がもげて死んでしまうのだから、不治の病としか言いようがなかった。薬も防ぎようもない。村から出ようとした人々は特に病の進行が早く、瞬く間に腐れ落ちて死んでしまった若者を見たこともある。
町から医者が来たところで役には立たなかった。身体の外も内も腐って血を吐き、のたうち回る人々に施せることなんかありはしない。せいぜい、町外れの神父が祈りの言葉を唱えるくらいだ。
不思議なことに、村の人間以外には、この病はうつらないようだった。村の人間が次々に苦しみ、悶えながら死んでいくのに、医者も兵士もけろっとしていた。神父、あんたもだ。
だからどうか、この出来事を伝えて欲しい。我々が何を間違ったのか。あの旅人は御使いだったのか、呪いを振りまく魔物だったのか。どうか誰かに解き明かして欲しい。もう、わたしも長くはない。
──こう証言した翌日、彼は大量に黒い血を吐き、首から上が腐れ落ちて亡くなった。
村人が全員、同じ症状で亡くなると、謎の病は消えてしまった。
村が雪に閉ざされるまで、半月と迫った頃の出来事である。
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