悪魔の使いの御伽噺

 山間のある村に、ある日、旅人が訪れました。旅人の肌は透けるように白く、髪も新雪のように真っ白で、村中の人々は旅人を怖がりました。村の中にそんな人はおりませんでしたので、みんなが怖がるのも当然でした。

 最初は怖がられていた旅人でしたが、村長の家に寝泊まりしながら、村人の仕事を助けたり病を癒したりしました。そうしているうちに旅人は村人たちに受け入れられ、仲良くなっていきました。

 そんな日々が一月ひとつきばかり続いた頃のことです。

 ある朝、村の女の子が亡くなっているのが見つかりました。女の子の身体には痣があり、誰かに殺されてしまったことは明らかでした。

 女の子の両親はたいそう哀しみました。村人たちも家族同然の付き合いでしたから、みんなが深く哀しみました。

 それから数日後のことです。今度は村の納屋で幼子が亡くなっているのが見つかりました。幼子は家畜のように納屋へと繋がれ、身体中に痣がありましたので、これも誰かに殺されてしまったことは明らかでした。

 幼子の両親はたいそう泣き叫びました。女の子が亡くなったばかりだったので、家族同然の村人たちもたくさんたくさん泣きました。

 子どもが二人、立て続けに死んでしまったので、村人は犯人を捜すことにしました。村人たちは家族同然の付き合いで、みんながどんな人かを知っていたので、怪しいのは一人しかおりません。

 近くの町からやって来た兵隊に捕まったのは旅人でした。村人の中にそんな酷いことをする人はいないと、彼らが口々に証言したからです。

 旅人は罪を認めませんでしたので、来る日も来る日も、酷い取り調べを受けました。兵隊たちも村人のことは知っておりましたので、旅人が犯人だと決めつけていたのです。

 日ごとに弱っていく旅人は、遂に罪を認めました。村の広場に邢台が作られて、旅人は斬首されました。旅人の身体からはたくさんの黒い血が流れ出し、広場の大地を黒く汚しました。村人たちは旅人が死んだことに安心し、歓声を上げました。

 しかし、それからまた一月ひとつき後のことです。

 村人が大切に育てている果樹園で、男の子が首を吊っているのが見つかりました。手足が縛られていたので、誰かに殺されてしまったことは明らかでした。

 男の子の両親は泣きながら震えておりました。村人たちも家族同然の付き合いでしたので、みんな、泣きながら震えました。

 旅人は犯人ではなかったのです。

 男の子の葬儀が済んだ日から三日後、最初の被害者である女の子の両親が亡くなりました。彼らの肌は黒く爛れ、まるで旅人から流れ出た血を浴びたようでした。

 それが、謎の病の始まりでした。

 肌が黒く爛れて腐る病は瞬く間に村中に広がり、感染した人々は間違いなく命を落としました。

 村人たちはようやく気づきました。山間の村に訪れたのはただの旅人ではなく、疫病をもたらす悪魔の使いだったのではないかと。彼らには信仰がありませんでしたので、そのために悪魔の恐るべき力から身を守る術がなかったのです。

 気づいたときには遅く、旅人は死んでしまいました。村中に不思議な病をばら撒いて。

 近くの町から医師が駆けつけたときには、ほぼ全ての村人が感染し、腐った手足が落ちた状態だったそうです。生きている者もいましたが、病の原因も治し方もわからなかったため、程なく亡くなってしまいました。

 山間の村は冬が来る前に滅んでしまいました。














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