1147 A.D.
御使いの御伽噺
山間のある村に、ある日、旅人が訪れました。旅人の肌は透けるように白く、髪も新雪のように真っ白で、村中の人々は旅人を怖がりました。村の中にそんな人はおりませんでしたので、みんなが怖がるのも当然でした。
最初は怖がられていた旅人でしたが、村長の家に寝泊まりしながら、村人の仕事を助けたり病を癒したりしました。そうしているうちに旅人は村人たちに受け入れられ、仲良くなっていきました。
そんな日々が
ある朝、村の女の子が亡くなっているのが見つかりました。女の子の身体には痣があり、誰かに殺されてしまったことは明らかでした。
女の子の両親はたいそう哀しみました。村人たちも家族同然の付き合いでしたから、みんなが深く哀しみました。
それから数日後のことです。今度は村の納屋で幼子が亡くなっているのが見つかりました。幼子は家畜のように納屋へと繋がれ、身体中に痣がありましたので、これも誰かに殺されてしまったことは明らかでした。
幼子の両親はたいそう泣き叫びました。女の子が亡くなったばかりだったので、家族同然の村人たちもたくさんたくさん泣きました。
子どもが二人、立て続けに死んでしまったので、村人は犯人を捜すことにしました。村人たちは家族同然の付き合いで、みんながどんな人かを知っていたので、怪しいのは一人しかおりません。
近くの町からやって来た兵隊に捕まったのは旅人でした。村人の中にそんな酷いことをする人はいないと、彼らが口々に証言したからです。
旅人は罪を認めませんでしたので、来る日も来る日も、酷い取り調べを受けました。兵隊たちも村人のことは知っておりましたので、旅人が犯人だと決めつけていたのです。
日ごとに弱っていく旅人は、遂に罪を認めました。村の広場に邢台が作られて、旅人は斬首されました。旅人の身体からはたくさんの黒い血が流れ出し、広場の大地を黒く汚しました。村人たちは旅人が死んだことに安心し、歓声を上げました。
しかし、それからまた
村人が大切に育てている果樹園で、男の子が首を吊っているのが見つかりました。手足が縛られていたので、誰かに殺されてしまったことは明らかでした。
男の子の両親は泣きながら震えておりました。村人たちも家族同然の付き合いでしたので、みんな、泣きながら震えました。
旅人は犯人ではなかったのです。
男の子の葬儀が済んだ日から三日後、最初の被害者である女の子の両親が亡くなりました。彼らの肌は黒く爛れ、まるで旅人から流れ出た血を浴びたようでした。
それが、謎の病の始まりでした。
肌が黒く爛れて腐る病は瞬く間に村中に広がり、感染した人々は間違いなく命を落としました。
村人たちはようやく気づきました。山間の村に訪れたのはただの旅人ではなく、神の試練をもたらす天の御使いだったのかも知れないと。真っ白な髪も真っ白な肌も、思い返せば、無垢の象徴だったのかも知れません。
しかし、旅人は死んでしまいました。どんなに悔やんでも取り返しはつきません。
近くの町から医師が駆けつけたときには、ほぼ全ての村人が感染し、腐った手足が落ちた状態だったそうです。生きている者もいましたが、病の原因も治し方もわからなかったため、程なく亡くなってしまいました。
山間の村は冬が来る前に滅んでしまいました。
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