司祭ヨセフの手記-2
『わたしが子どもの性器を知っている理由はただ一つ。司教に乞われて、司教の目の前で、子どもと互いを舐め合ったからに他ならない。
未成熟な子どものそれからは透明な雫ばかりが出てきて、それは酷く甘く感じられ、いつまでも舐めていられる気がした。司教の淡い灰色の瞳が満足そうに細められ、子どもの細い肢体と絡まるわたしの貧弱な身体を見つめていることを認めただけで、天にも昇る心地だった。
司教が命じるならば、わたしは誰にも捧げたことのない純潔を、子どもために喪ってもいい。いつか司教に蹂躙されたいと願う場所を、いつなんどき、そのときが来ても構わないように自ら指を突き入れて慰めながら、そこの純潔を散らすのが子どもの未熟な性器であっても構わないと震えるようになった。
しかし、だ。
子どもが見習いとして院で暮らすようになって半月も経とうとする頃には、わたしは司教の手慰みに呼び出されることがなくなった。愛しい灰色の瞳はわたしを真っ直ぐに見ることがなくなり、父性に溢れた慈しみの笑みは子どもにばかり注がれるようになった。
嗚呼、彼はわたしを愛していない。
わたしは最初から知っていた。司教がわたしを呼び出すのは呪いのような魔性を抑え込む手段であって、わたしの顔や口や掌をスペルマで汚すのは愛ゆえではないことを。知っていながら、知らない顔をしていた。子どもの性器は悦んで口に含むのに、わたしのそれには指さえ触れてくれなかったにも関わらず。
月が変わろうとする頃、ヨハネの気が狂れた。悲しいかな、わたしは司教のことばかり考えていて、ヨハネの変化には気づいていなかった。
その冬一番に冷え込んだ朝、マタイが慌ててわたしの元へ駆けて来て、中庭でヨハネが子どもを強姦しているから一緒に止めてくれと頼まれて初めて、ヨハネもかと気づいたのだ。
中庭に駆け付けると、地面に押し付けられる形で尻を上げ、裸の子どもがヨハネに突き上げられていた。そこは司教を受け入れ慣れているにも関わらず、粘膜が捲れて無惨に広がり、裂傷から流れた血が膝まで滴り落ちていた。ただでさえ白い子どもの顔からは血の気が失せ、唇は寒さと恐怖で紫だった。茫然と目を見開き、自分を失ったように動かなかった子どもは、わたしとマタイがヨハネを引き剥がして押さえつけたあと、堰を切ったように泣き出した。涎を垂れ流しながら猛獣のように暴れるヨハネを非力なわたしに託し、マタイは打ち捨てられた貫頭衣を拾って子どもの身体を包むと、怯えて泣き止んだ子を回廊の中へと連れて行った。
我らが大事にしている聖典の中には異端とされる偽書が何種類かある。その中に、アダムの最初の妻として、リリスという女がいたことを記しているものがある。彼女は我らが淫魔や夢魔として恐れる悪魔の始祖で、男に跨って男を喰らう、女にあるまじき行為を好むのだという。
わたしはてっきり、あの子どもはその類なのだと思っていた。寝台に横たわる司教に跨り、司教の楔を自らアヌスへと導き挿れる姿ばかりを夢想しては嫉妬に狂いそうになっていた。精悍な司教の精を搾り取り、叶わぬ受胎を望んで淫蕩に笑うであろう子どもの姿に自らを重ね、太さのある張形をアヌスで咥え込みながら、気を失うまで自慰をして眠りに就く日々を過ごしていたのだ。
わたしももう、正気ではない。
司教と相談した上で、あの猛獣を野に解き放つわけにはゆかぬと結論し、納屋に軟禁した。
ヨハネが両目を突いた夜、わたしは司教の部屋を訪れ、彼の楔を口と手で奮い立たせたあと、広がりきった場所へ迎え入れた。無機質な張形とは違う肉の感触に溺れ、男の機能を使わずに果てた。何度も、何度も絶頂を繰り返し、司教の精を搾り尽くしたあとは部屋に戻り、張形を咥えて失神するまで自らを慰めた。
翌日のことは覚えていない。
自傷したヨハネが見つかって、誰もがあちこちを駆けずり回り、わたしも司教も多忙を極めたに違いないのだが、何をしたのか覚えていない。
ヨハネが納屋に残されていた鋤で両目を突いたのを見つけたのも、強姦現場を見つけたマタイだったとあとから思い出した。その日はたまたま、ヨハネに食事を届ける当番だったために、悲惨な出来事を目撃させてしまったことは不憫に思う。マタイは特に真面目な性格で、教えに実直な修道士であるから、その心痛は如何ばかりであろう。と、これを記している今になって思う。
ヨハネは三日三晩、高熱に魘された末、亡くなった。最期は穏やかな顔だった。全ての苦しみからようやく解放され、安堵したように見えた。わたしもそうありたいと願った。
ヨハネが死んだ日の夜も、それからも、わたしは毎晩、張形を咥えては司教と繋がった日を思い出し、あの天国にも昇る気持ちに浸ろうと苦心していた。しかし、あれだけの心地にはなかなか至らず、とうとう、昼日中も下履きの中に張形を咥え込み、日常を過ごすようになってしまった。張形も大きさに満足できなくなり、遂には自ら木の枝を削って作り出すことも厭わなくなった。
いつか、道士たちの誰かに見つかるかも知れない。そんな背徳が、神の教えを破ることへの罪深さと共に、わたしをよりふしだらで淫らな気持ちにさせた。「ヨセフ様、これはいったい、どういうことですか?」──そんなふうに言葉で責められ、蔑まれながら、男の機能が役に立たなくなって来ると共に丸みを帯びた気がする身体を見られ、臀や背中を鞭で打たれて、張形を無造作に動かされて掻き回される被虐を想像し、アヌスでの法悦に浸った。
「何をしておいでなのですか?」
その日の午後、わたしは礼拝堂に篭って作業をするからと人払いした上で、一人、背徳に耽っていた。性欲を覚えることさえ禁じる戒律を定めた救世主のことを思いながら、裸になり、罪深い行為を神に見られる禁忌に没頭していた──それが、その頃のわたしの日課だった。
その日課を咎めたのは、マタイだった。
彼は怒りに顔を黒く染め、わたしに近寄ると、殴ろうとしたのか腕を振り上げた。
「良いではありませんか」と窘めたのは、淫蕩に笑う子どもだった。わたしが夢の中で嫉妬した通りの顔をして、茫然とするわたしに近づくと、そっと膝を折り、「可哀想な方なんですから」と勝者の笑みを掃く。屈辱に震えるわたしの顔を撫で、扇情的な仕草で自らの貫頭衣の裾を捲るとマタイを振り向き、「たまには趣向を変えましょう」と意味深に言った。』
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