819 A.D.

修道士ヨハネの日記

『六日、寒月。

 桶に汲んでおいた水に薄い氷が張っていた。

 震えながら沐浴をした。

 礼拝堂を掃き清め、風を通すのに扉を開けると、子どもがぐったりして座り込んでいた。

 どうやら迷い込んだようだ。

 修道院にはたまに、住むところを持たない人々が流れ着くから、この子どももそうなんだろう。

 昨夜は冷えたけど、子どもは死んでいなかった。

 酷い熱があったから運び込んで院長に知らせた。

 白い髪に白い肌。十歳くらい。綺麗な顔をしている。

 モザイク画で見る聖霊様みたいだ。

 子どもの熱が下がるまで世話をすることになった。

 容態はあまり良くない。

 眠れない日が続きそうだ。』


『十日、寒月。

 子どもの熱は下がらない。日々の務めをしている間に死んでしまうんじゃないかと気になってしまう。

 落ち着きがなさ過ぎると院長に叱られた。』


『十二日、寒月。

 子どもの熱が引いて目を覚ました。

 死ななくて良かった。

 子どもは何も覚えていないと言っていた。どうやってここまで来たのかもわからないらしい。

 ここは修道院だと教えた。

 院長に相談すると、部屋の空きがあるから、修道士見習いとして生活してもらうことになった。

 それにしても綺麗な顔の子どもだ。

 目が大きくてくりくりしていて、女の子のようだ。

 ここは女人禁制だから男の子でほっとしている。

 子どもの呼び名がないのは不便なので、正式な洗礼まではシオンと呼ぶことにした。

 荒野のシオン。

 ぼくが付けた名前だ。

 他の人たちには酷すぎると言われたけど、シオンは気に入ったみたいだから安心した。

 何もない荒れ野に聖霊様が遣わされたんだとぼくは信じている。』


『十八日、寒月。

 シオンもここでの生活に慣れてきたみたいだ。

 毎朝の沐浴はまだ寒そうにしているけど、食事は喜んで食べているようだし、日々の務めも頑張っている。

 聖典の一節を覚えるのも早い。

 今は冬だから農作業ができないけど、あんなに細い腕で土を耕せるだろうか。

 ときどき女の子がいるように見えて驚くことがある。

 髪が長いせいだろうか。

 正式に修道士になれば見間違えることもなくなるし、農作業が始まれば、ぼくらと同じようになるだろう。

 今日も少しだけ、シオンが女の子に見える瞬間があった。

 同じものを食べて同じように生活しているはずなのに、シオンからはときどき、いい匂いがするような気がする。

 こんなことを思うのは戒律破りだとわかっているのに、気が付くとシオンを見ている自分がいる。

 明日からは鞭打ちを日課に入れよう。』


『二十日、寒月。

 今日はシオンと二人きりで夕餉の支度をした。

 料理をするのは慣れないらしく、調理中、シオンはずっとくっついて、ぼくの手元を見ていた。

 何だか甘い香りがして、何度か指を切りそうになった。

 あの子が傍にいると自分が自分じゃなくなる気がする。

 主に仕える身なのに、どうにかなってしまいそうで怖くなる。

 ぼくらと同じ貫頭衣の下を考えてしまうなんておかしい。

 彼はまだ十歳くらいの子どもだぞ。

 女の子かと思うくらい可憐な顔をしていても子どもだ。

 清貧と純潔の誓いを立てたんだ。

 そこが熱を持って膨らんで形を変えるなんて、悪魔の唆しに違いない。

 聖霊様が遣わしたと思ったけどそうじゃない。

 シオンは悪魔の遣いだ。』


『二十一日、寒月。

 頭がおかしくなりそうだ。

 シオンが他の道士たちと話している姿を見るだけで、腹の中が熱くなる。

 可憐な顔でちょっとでも笑いかけようものなら、話し相手を引き剥がして無茶苦茶に殴りつけたくなってしまう。

 シオン、こっちを見て、シオン。

 君を助けたのはぼくだ。

 院長たちじゃない。

 ぼくだけに笑いかけて欲しい。

 ぼくだけに話しかけて欲しい。』


『二十二日、寒月。

 偶然、シオンの沐浴を見てしまった。

 貫頭衣の下は想像よりも華奢だった。

 背骨が透けて見えるほど細かった。

 夜明け間もない時間だから寒そうに身体を縮めながら、水で絞った布で丁寧に肌を拭いていた。

 ぼくが拭いてやりたかった。

 あの滑らかそうな肌に触れて、シオンの体温を感じてみたかった。

 割礼しなかったのか、皮をかぶって小振りな陰茎まで優しく丁寧に拭いてやりたい。

 ほら、ここも綺麗にしないといけないよ。

 そう言いながら拭いてやって、きっと恥ずかしがるシオンはどんなに可愛いだろう。

 剥いたばかりのそこは麗しい桃色だろうか。

 いつの間にか硬く反り返ったそれを握りしめ、身体を突き抜ける感覚に浸っていた。

 背筋が痺れた。刺激が頭に突き抜けて、ぼくは掌と貫頭衣を白く濁った体液で汚してしまった。

 罪深いことだとすぐにわかった。

 でも、すごく気持ちが良かった。』


『二十六日、寒月。

 あれから毎晩、シオンの姿を思い出して慰めている。

 他の人たちに見つかったら叱られるだろうと思うと、ぼくの気持ちは更に乱れた。

 背徳が強ければ強いほど、その瞬間の痺れは最高になる。

 頭の中では何度も、何度も、シオンを乱暴に掻き抱いて、嫌がりながら泣きじゃくる頬っぺたをベロベロに舐めていた。

 姦淫の罪はフィメールに対するものだから、同じメールのシオンとなら罪にはならない。

 ああ、シオン、シオン。

 繋がりたい。』


『二十八日、寒月。

 遂に見られてしまった。

 シオンの沐浴を隠れて眺めながら、ぼくがそこを握って秘密の行為に耽っているときに、シオンに声を掛けられた。

 恥ずかしすぎて逃げてしまった。

 他の人たちに告げ口されるんじゃないかと落ち着かなかった。

 シオンはいつも通りに過ごしていたけど、ぼくとは目を合わせてくれなかった。

 これは神罰だ。

 主を欺いた当然の報いだ。』


『(日付なし)

 沐浴前、シオンに中庭へ誘われた。

 くりっとした瞳でぼくを熱っぽく見上げて、「ボクのこと、すきですか?」なんて聞くものだから、頷くべきかどうかわからなくなってしまった。

「ボクを助けてくれたの、ヨハネさんだって聞きました」「だから、お礼をしたいんです」そう言って、シオンは貫頭衣の裾をまくった。下履きはなくて、シオンの可愛いところが見えた。

 シオンは僕にお尻を向けた。

 白くて形のいい、薄いお尻。

 彼は大胆にお尻を割って、ぼくに桃色のアヌスを見せた。

 トロトロに濡れていた。』


『(以下、意味不明な文字が数ページにわたって綴られたあと、ぐしゃぐしゃに書き殴られた線に変わり、日記は途絶する)』

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