第36話 不安な心と安心の香り

 ニーナはじじ様と過ごした日々を思い出ていた。

じじ様は生きることに必要なことをたくさん教えてくれた、そしてじじ様が知る真実も…。


「ニーナよ、真の名は一人にしか明かしてはいけないよ。もし他の者が知れば…途端にニーナではいられなくなってしまうから…。」


 幼い頃はじじ様は言っている意味が分からなかった、でも今ならなんとなく分かる。

不安だった…、この国に来る前は。

名を知るたった一人に、拒否されたら? 

もしかしたらその場で殺されるかもしれない…。

そもそもじじ様の話が全て偽りだとしたら?

 そんな不安を打ち消してくれたのがヘイヴンだった。彼が側にいてありままの自分を好きだと言ってくれれば他はどうでもいい…。

だから本当の名をヘイヴンにも明かした、本当の自分を隠したくなかった。


 素敵な部屋の素敵なベッドの上で、私の採ってきた雑草の上で一緒に寝転がって笑い合ってくれる、自分でも驚いたこの色を綺麗だと言ってくれる、こんなに素敵な男の人が私を好きだと言ってくれた。


「私ね、ヘイヴンがいてくれたらどこにいても幸せよ。」


「…そんな…殺し文句……。」

「え⁈」


 ヘイヴンは胸の高鳴りに耐えられずにニーナを抱き寄せる。

草の香りとニーナの香りが混ざり合って頭がクラクラする。彼女の髪が顔をくすぐる。華奢な体はすっぽりと彼の腕の中に納まっている。

 ニーナは突然のことで頭がボーっとする、でも心はあちこちに弾んで…どこかに飛んでいきそうだ。そして、ヘイヴンの顔を見る…皆が恐れると言う赤い瞳…、その瞳は優しい炎のように暖かい、この瞳にずっと見つめれていたい…もうどうすればいいのか分からなくなって思わず彼の胸に顔をうずめる。


「これ以上は…、限界だ…。」


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