第32話 月夜のバラ

 その夜はベッドに横になっても眠ることは出来なかった、羽毛のベッドでもだ…。


散歩にでも行こうかな…。


 ニーナはガウンを羽織り、まるで森の中を行くように気配を消して部屋を出る。 庭に出ると空気が少し冷たい、頬に気持ちよく風が当たる。

月に照らされてバラの花びらはそれ自体が光を放つように闇の中に浮き上がっている様だ。


こんなに世界は美しかったんだわ…。


 バラに触れ、その柔らかく儚い感触を楽しみ、香りを嗅ぐ。

目をつむれば前と同じ…。

 あれほど望んで、やっとここまで来た…。じじ様が言っていたように素晴らしい国に家族もいる、なのに何だろう…? 寂しい? 

ふいに夜風がニーナの髪をなびかせる…、なにかに捉まれ引きずられていくような…そんな感じがする。


「…ニーナ…?」


優しい声に振り向く。


「…え…ヘイヴン…⁈」

「屋敷の者が幽霊が出たって騒いでますよ。フフッ…」

「は⁈…うふふ…それもそうね。」


月明かりの下、自分は真っ白だ。これは人間離れしていると自分でも思う。


「初めて森で会った時と同じだな…あの時は天使がお迎えに来たと思ったな。

…でも、これが一番ニーナらしい…。」

「…私らしい…?」

「ああ、色々な色をまとって着飾っている君も素敵だけど…、俺はやはりニーナらしいこの色が一番好きだ。」


 ヘイヴンはニーナの髪の毛をひ一ふさ手に持つ。ニーナは一瞬にして彼に支配されてしまう。

ニーナの顔が真っ赤になっているのに気づきヘイヴンはハッとする。手には彼女の髪、つい出てしまった好きという言葉…。髪の毛から手を離し、今は自分の頭をかいている。


「…くそっ…」

「え⁈ ヘイヴン…、どうしたの?」


「ニーナ! 正直に言ってくれ、君はセナに惚れたのか?」


 ニーナは驚いて口をポカンと開けている、自分の愚かさにヘイヴンは恥ずかしくなる、なんという愚問…。


「フフッ…、アハハ!…もう…!…フ…、どうでも良くなった来たわ! …ヘイヴン、ありがとう!」


「?????…どういうこと…?」


「私、ヘイヴンのこと好きよ!だからもう全部吐き出してしまうわ!…ねぇ、ヘイヴン、いい?」

 

え⁈ …え、えーーーーー⁈ヘイヴンは心の中で叫んでいた。ニーナは大笑いしているがとんでもないことを言っている。


「セナはね…、私の双子の兄なの。私の本当の名前はカレデニーナ・ルナ・ファンデーヌって言うの。」


ヘイヴンにはもう理解力はない…。もう倒れそうだ。


「…え…と、つまりは…だ、君はセナに惚れてはいない…と…?」

「当たり前よ!私は、に惚れてるの!!」


 ニーナはヘイブンの胸を人差し指でトンと突く、何かが弾けた様にヘイヴンは目の前が明るくなる。思わずニーナを抱き寄せる。


「ニーナ、好きだよ…。」


 ヘイヴンから発せられる初めての甘い声に気を失いそうになる。






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