第30話 真の名
国王は言った通りにニーナを温室に案内した。
ただ、二人きりとはいかず、セナ、ヘイヴン、もちろん護衛もいる。
「ニーナ、この花だよ…、見せたかったのは。」
温室の中に、薄いピンク色のその花は大きな花びらを蝶のように広げていた。良く手入れをされていて大事にされているのが分かる。
「この花はね、私の妻が好きだったんだ。私の妻はもう亡き者だが…、この花を見ると妻の…あの美しい笑顔を思い出す…。
君の笑顔も…この花のようだと思ってね。」
二人の間に緊張が走る。
国王とニーナは花に近寄り話している、他の者には何を話しているか聞こえない。しかし、ニーナは何かを警戒している。
「少しなら結界を張ろう…、話を聞くよ。」
国王はこっそりと言う。ニーナの何か決心をしたような顔つきに気付いたのだ、国王自身もまたこの娘がなぜ心に引っかかるかが知りたい。誰にも気付かれないくらいの魔法で二人だけの空間を作る。
ニーナが口を開いた。
「じじ様は言いました…。真名を明かせるのは一人だけだと…。
……私の名は、カレデニーナ・ルナ・ファンデーヌ!」
そう言うのと同時にニーナは自分を真の色に戻す。国王の目に鮮やかに白くなっていく髪の毛と白い肌がうつる。そして深い緑色に灰色を落としたような色の瞳…。
あの日に見た…、あの瞳だ…。
その瞬間、結界は解け国王は膝から崩れ落ちた。
「陛下ー!」
皆が一斉に国王の下に駆け寄る。
ニーナは大粒の涙をボロボロと目から流し立ちすくんでいる…。
二人はただ話をしているだけのようで、ニーナが国王に何かしたということはなかった、こんな娘が腕の立つ騎士や護衛の前で何か出来るはずもない。いったい何が起こったのか誰にも分からなかった。しかし、ヘイヴンはニーナを守るべくその場所から連れ出す。セナは他の護衛と共に国王について行った。
「ニーナ、大丈夫か?」
温室を出てニーナを落ち着かせようと中庭のベンチにニーナを座らせる。
ニーナは何もしゃべらない、ヘイヴンはただ彼女の隣に静かに座っていた。
そこへセナが駆け寄ってきた、さすがのセナも表情が険しくなっているのが分かる。
「ニーナ、父上がお呼びだ…。治療をして欲しいと。」
「…私…? …私で役に立てるでしょうか…?」
「頼む、診てやってくれないか…?…国王が望んでいる。」
国王はベッドに横になっていた、顔色が悪い…。主治医もいるがニーナを見つけると優しい笑顔を浮かべて診察をするように言う。
「皆、下がって良い。…セナはここに残れ…。」
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