第24話 美しい赤

 翌日、ニーナが目覚めたという報告を受け、なるべく冷静にニーナのもとへ向かう。医師によれば、何も異変は見つからないので、長旅からくる疲労だろうと診断された。静かに寝かせておくようにとのことなのでヘイヴンは待つことしか出来なかった。


 ニーナの部屋に入ると、ニーナはまだベッドに横になっていた。メイドが着替えをさせて、化粧も落としていたので顔色が悪いように見えるが、いつものニーナだ。

羽毛の枕の感触を目をつむりながら楽しんでいるように見える。


「ニーナ、起きているんだろう? 気分はどうだ?」


 ニーナの顔を覗き込むと、ニーナがそっと目を開けた。

彼女はヘイヴンの顔をじっと見ている、驚きに目を見開いてじっと瞳を見ている。

そして、ヘイヴンの顔にそっと触れる。


「…綺麗……これが…赤色なの…?」


ヘイヴンは自分の顔を包む柔らかな手、見つめて来る瞳に囚われて考えることも動くことも出来ない。でも確かなのは俺の瞳を見て赤色と言ったことだ。


「…な…なにを…? …色が分かるのか?」


ニーナはハッとして手を離し目をギュッと閉じた。


「…色…??」 


混乱している、ヘイヴンも混乱しているが平静を装い優しく言う。


「ニーナ、ゆっくり目を開けて…。」

「…イヤッ! …怖い!」


ニーナは目を開けようとしない。ヘイヴンはニーナの手を取り自分の顔に添える、そして息のかかるくらいに顔を近づける。


「…大丈夫。俺の目を見て…。」


ニーナはそっと目を開ける。


「…ヘイヴン…赤色が…きれい…、髪もきれい…これは何色?」


ニーナはヘイヴンの髪の毛に触れる。


「銀色だよ。」

「…これが…銀色…肌色…赤色…ヘイヴンはこんなに色鮮やかだったのね…。」


 ニーナはヘイヴンに釘付けになっている、ヘイヴンは彼女に髪の毛や頬を触れれて心穏やかではない。彼女の目を自分から離し他に目を向けさせようとする。


「ニーナ、ゆっくり回りを見てごらん。…少し刺激が強いかな…。」


 ニーナはゆっくりヘイヴンから目を離し部屋を見まわす。

キラキラだ!家具も床も天井も壁も、色・色…! 

目が痛くなって思わず目を閉じる。


「ごめん、ごめん…。でも、全部色が付いているのかい?」

「…うん…。目に飛び込んできて…何が何だか…。目を開けるのが怖い…。」


 ニーナは初めて見る世界に恐れをなしているようだ。それもそうだろう、いきなり世界が色を持ち始めたのだ。しかも、知らない場所で飛び込んでくる色は…派手な装飾の色ばかりだ。

 何か馴染みのあるもの…それならば安心して見られるのかと思いニーナの手を取りベッドから連れ出す、彼女はまだ目を開けようとしない…、少し歩いたところで止まり、後ろからニーナを支えるように立つ。

 

「目を開けてごらん、自分を見たくない? 元の色に戻してあるから。」


 ニーナはそっと目を開ける、そこには鏡に映る…自分?

白く長い髪の毛、白い肌、瞳の色は何というのか? この色のお陰で今まで人の目が気になっていたのか…。後ろに倒れそうになったがヘイヴンがいてくれている。


「…これは…、そう…こんな色だったのね、フフッ…白って素敵だと思わない?」

「…ああ、君はいつも素敵だよ。」


ニーナはふと鏡の横に飾ってあるバラに目を奪われる。


「これは…何色?」

「それは、ピンク色だよ。」


「これが…ピンク色、可愛らしい色ね…好きだわ。」


 それからしばらくニーナはヘイヴンを質問攻めにした。このままではいつまでも彼女の探求は終わらないだろう。


「少し休んだ方が良い、目が疲れるだろう…。」


「でも! 見たいの! 知りたい、この世界の全部の色を!!」

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