第15話 魔獣の森の快適な暮らし

 森での食事は、ウサギやシカに会えれば運が良い。

騎士の野営の食事と言えば携帯食と決まっている、2,3日と言えど暖かい食事が取れるとはありがたい。まぁ、ニーナがたいしておいしくない携帯食など食べる訳ないとは思っていたが…。

 ニーナのお勧めという魔獣料理を堪能することもあった、魔獣は食すには余り向かない…、それに余り食べたいと思わない食材でもある。ニーナが言う比較的動物の味に近いという物を狩り、慎重に調理すれば結構食べられる物になるというので、食事はニーナに任せることにした。


 一日目にニーナが狩ったのはキツネに似た小さめの魔獣だった、ニーナはすぐに血抜きをした、そうすることでぐっと獣臭さの具合が違うそうだ。それが終わるときれいに肉をそぎ落とし、数種類の薬草、持ってきた調味料を一緒に煮込む。途中で手に入れた野菜のようなものも一緒に入れる、魔獣シチューと言ったところか。


「そうぞ、結構いけると思うんだけど。」

「ああ、いい匂いだ!魔獣の肉とは思えないな。」 


全くと言っていいほど臭みのない肉だった。肉の部分でも臭みの強い所もあるそうだ、そんなことまで熟知しているとは、全く…、底が知れない。


 

 翌日、歩いているとニーナが何かを見つけて興奮している。

見ると、その手にはなんとも表現しがたい…奇妙な色のキノコが握られている。


「ヘイヴン!! 見て!このキノコ!! なかなかないんですよコレ! あぁ~、これがあったら…やっぱりあのお肉!!」 


「さあ、狩りに行きますよ!!!」


 いつものニーナだ、危険な森の中だろうと自分の心のままに動く。

ヘイヴンはやれやれ…少し寄り道だな。ニーナの案内では意外に早く着きそうだったからこのくらいが丁度良いのかも、と思いニーナの好きなように行くことにした。


「ヘイヴン、このキノコとウサギのグリル、絶品ですよ!」

「うん、このキノコの見た目が不安だったが…、これはウマいな!」

「…え? このキノコ…どんな色しているの?」


「うん? 知らない方が良いこともあるな。」 


と言ってキノコにかぶりつく。



 こんな風に魔獣料理や変わった食材を味わう旅はとうとう終わりに近づいてきた。

ファンデーヌの砦に近いことはヘイヴンにも分かっていた。

魔獣討伐隊としてこの森に入ったのがずいぶんと前のように感じる。あの日、多くの隊員が襲われ怪我をするのを見た、ヘイヴンは数名と共に魔獣の群れから逃れようと必死に走った、傷を負いながらも無我夢中で…。しかし、気が付くと一人になっていた。 他の皆はどうしているだろうか? 様々な不安が押し寄せる…、そんな不安そうな顔を見て察したのであろう、ニーナが笑顔を向ける。


「もうすぐお友達と会えますね。」

「みな元気だと良いが…。」

「大丈夫ですよ、怪我をしている人は私が治しますから!そのために私が来たんですよね?」 


一気に不安が吹き飛ぶ、魔法のようだ。


 ニーナは髪を染めると言い川岸に行ってしまった。ヘイヴンは目をつむり、あの美しい白い髪の毛がどのような色になるのか想像する。


「…ヘイヴン? あ、寝てました?」 


 いつの間にか寝てしまっていたヘイヴンは目を開ける。

ニーナを見て、自分の想像の乏しさに恥ずかしくなる。いや、こんなのは想像できるはずはない…。

彼女の髪は見事に染められていた、白い肌にも合うよう薄めの茶色…。これ以上濃くても、薄くても肌の白さが目についてしまうギリギリの色調。


「…美しいな…。」 


思わず声が出る。


「え…? あ…ありがとうございます。自分では分からないので…。でもヘイヴンがそう言うのなら大丈夫ね。」 


何が大丈夫なのだ⁈ これでは余計に目立つのでは? ヘイヴンは心の中で叫ぶ。


「…フードは被るのか?」

「そうですね、肌の色もあるから…。」

「そうでは…ないが…。う~ん…、じじ様は本当に良い薬師だったのだな、アルトニアではよほど名が通っていたのではないか?」

「そうでもないですよ、じじ様がは若い頃はファンデーヌにいたと言ってました、余り昔のことは話さなかったので詳しくは分かりませんが…。」


 じじ様がファンデーヌ出身かもしれないと知り、何とも言えない不安のような気持ちになるヘイヴンだった。



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