第13話 風変わりな回復治療
ニーナは家に着くと摘んできた花をテーブルの上に飾った。
「良い香りですね、そうだわ!ベッドにも花の香りがあるといいと思いません?」
「良いと思うが、私のベッドには無用だ!!」
「そうですね、今ヘイヴン様のベッドは体力回復に重点を置いてますから。」
前にもニーナは言っていたが体力回復?どういうことだ?聞いたことがない…。
ベッドで体力回復が出来るのか?様々な疑問が浮かぶが、質問することすら出来ないほどニーナの言っていることは不可解だ。もう質問できることから聞くしかない。
「…そうだ、前から聞こうと思ってたんだが、この傷の治りの速さは薬草の効果もあるんだろうが、魔法も使っているのか?」
「う~ん…、そうですね…おっしゃる通り薬草の力もあると思いますが、私の作ったベッドで寝ると色々な効果が上がるようだとじじ様が言っていました。」
無意識に魔法を発動しているのか?
回復魔法は珍しい、どの国も一人でも多くの回復魔法士を抱えたいものなのだ。
ファンデーヌでも例外ではない、例えば騎士団に一人は欲しいのだが足りていない…、やむを得ず回復魔法士は負傷者が出そうな所を巡回しているのが現状だ。
ニーナの回復魔法は時間はかかるが体への負担が少ないように感じる、しかも怪我が治った後のことも考えてのものは他にはない。これはヘイヴンが騎士であり今まで何度か回復魔法士に診てもらったことがあるから分かることで、普通はなんとなく魔法で無理やり傷を治すという感じで、後になって違和感が出たり疲れやすくなったりしていたのだ。
ヘイヴンは騎士団の一員としてニーナの回復魔法が欲しくなった。
こんな正当な理由でニーナと一緒にもう少し長くいられるかもしれないと思うと、ヘイヴンは嬉しさと興奮を隠せそうにない。
「ニーナ殿! 一緒にファンデーヌに行かないか?」
「え⁈ それは…???」
「君の回復魔法は素晴らしい!! ファンデーヌでは回復魔法士が不足しているんだ。少しツテがあってね、悪いようにはしないよ。」
まだ困惑しているニーナにヘイヴンは手段を選ばないことにした。
ニヤッと笑い続ける。
「それに…、ファンデーヌには素晴らしい寝具があるんだよ。
鳥の羽毛を使っていてね、それはもう雲のように軽くてその触り心地と言ったら…」
「鳥の羽毛⁈…なんですか!そんなものが…???……その…、それはフワフワーっとしてるんですか?」
「ああ、枕なんてフワーっと頭が雲に包まれるように…。」
ニーナは興奮で鼻息が荒くなっている。
ヘイヴンの顔が意地悪そうに笑っているが、ニーナはそれに気付いても羽毛の布団のことを思うと、何もかもどうでも良くなっていた。
「オホン…、そんなに言うのならファンデーヌに行きましょう。」
ヘイヴンの勝ち誇ったような顔がニーナにも分かったが、今はもう羽毛布団の中でフワフワに包まれて寝ることに頭がいっぱいになってしまう。
「それで、いつ発ちますか?」
二人は早速旅の支度を始めた。
真面目なヘイヴンは様々な事態に備えて準備したいところだが、例えば武器や鎧の整備、備蓄の準備など騎士の時とは違い特別な準備が出来ない…。ニーナを見ると、まるで遠足か何かにいくように浮かれていて準備と言う準備をしていないように見える。
「ヘイヴン様、そんなに気張らなくても大丈夫ですよ、必要な物はたいがい森で手に入りますし、魔獣は彼らの生活を邪魔さえしなければそんなに危険ではないんですよ。」
「うむ…、しかしニーナ殿に危険があったら困る。ファンデーヌまで快適とはいかなくても何事もなく旅をしたい。」
「うふふ。」
「何かおかしいことを言ったか?」
「いいえ…、殿方に心配されることが初めてですので…。じじ様は森に入るときはむしろ私を頼りにしていましたから…、あ、すみません…じじ様と比べるなんて…。」
ヘイヴンは複雑な思いでニーナを見つめる。無理やり話題を変える。
「ところで、ニーナ殿のその言葉使いはじじに教えてもらったのか?」
「はい、じじ様が言うには高貴なお方と話すときはこうするものだと。私は学校には行けませんでしたので…、じじ様から色々なことを教わりました。」
「高貴な方か…、私は別に高貴ではないよ。ニーナ殿は高貴な方以外とはどう話す?」
「そんな…、急に言われましても… ヘイヴン様は…。」
「様はもういらないよ、俺もこれからはニーナと呼ぼう、いいか?」
「…はい。心がけます…、ヘイヴン…。」
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