第9話 街と色

 今日は森で物を街へ売りに行く、ヘイヴンも一緒に行くことにした。

ニーナは髪の毛を束ねてフードを被り顔の半分くらいまでを覆うようにしている、それでも、その白い肌と美しい口元が見えていていては逆に目につくのでは?とヘイヴンは思っていた。


「良いんですよ、これで… 街の人は分かってますし。 ただあまり知らない人はやはり… なのでフードを被って行くんです。」 


 ヘイヴンは色のせいではなく、その美しさをどうにか隠す為のフードかと思っていたのだが…。


「あぁ…その…、ニーナ殿は奇異な目で見られるのは嫌ではないのか? 魔法で色を変えないのか? そのくらいの魔法は使えるんだろう?」


 この世界では人々は生活魔法、炎を出す、風を起こす、水を出す、色を変えるなど…そういった生活に必要な少量の魔力は皆持っている。ただ魔力の量は人それぞれで、少ない者はほとんど使えない。魔力量の高いものはもちろん良い職に就けたりする。そして、まれに特殊な魔力を持つものもいて、そちらもまた重宝されるのだ。


「魔法で色を…ですか? ヘイヴン様はこの色の私と歩くのは嫌ですか?」

「い!…イヤという訳ではない… 私はニーナ殿の色は奇麗だと…」 


そこまで言って自分の口から出た言葉に赤面する。


「あ…その…、ニーナ殿こそ…こんな目の色の男といるのは嫌だろう?赤い色は不吉とされているからな。」


 ニーナはヘイヴンの目を覗き込む、ヘイヴンは心の中がザワザワするのを感じた。ニーナはヘイヴンの目を見ながらフフッと笑うだけだ。

彼女の答えは分からぬままだったが、ヘイヴンはやはり目の色を変えて行くことにした。ついでに少し目立つ髪の色も変えて行く、ニーナは髪の色のことも何も言わなかった。


 

 街につくとニーナはまず資金調達をした。すべて売れたようで荷物持ちもいるしニーナには色々と買いたいものがあるらしい。まずは洋服屋に行きたいと言う、まあ、年頃の娘には一番の楽しみだろう、などどヘイヴンが考えていると…。


「ヘイヴン様、あの…、必要な物がありましたら…。 あ!この前一緒に採った薬草が貴重なのもで良い値で売れたので…その分は遠慮なく使ってください!」


 ん? 自分の服を見に来たのではないのか? ふとヘイヴンは自分の恰好を見る。ニーナに言われて拝借しているじじ様の服は、一番大きいものを選んだがそれでもサイズが合っていない。自分の服には無頓着なヘイヴンだがこれはさすがに… ニーナに変な気の使いかたをさせてしまい申し訳なく思う。


「では…、お言葉に甘えさせてもらうよ。」

「はい、ヘイヴン様を変な恰好で帰す訳にはいきませんから。」


帰る…。そうか…いずれは帰るのだ、元の暮らしに。 

 こんな当たり前のことを忘れそうになっていた、それほどニーナとの暮らしが楽しくなり始めたいた。

結局、ヘイヴンは自分の服一式を買い、ニーナは二人分の大量の食料品を買い込んだ。


「あ、花屋があるな。 ニーナの家ははんとも殺風景な気がしてな… どうだろう、買っていかないか?」

「そうですね… 私は華やかなものが分からないので…。 ヘイヴン様が選んで下さい。」

 

 何だか寂しいような表情をするニーナ、悪いことを言ったか…。人の家のことをとやかく言う気はなかったが、ニーナの美しさに少しでも合うような華やかさがあっても良いと思ったのだ。

ニーナの家は全体が質素にまとめられている、それはそれで落ち着きがあって良いのだが。


「ああ、このピンクのはどうだろう?」

「ピンクの? まぁ、可愛らしいお花ですね。」 


花を見てフワッと笑う。ヘイヴンはもう花なんてどうでもよくなってしまった。


 ニーナは、その小さな花びらが幾重にも重なった花を大事に花瓶に入れテーブルの上に飾った。それだけで家の中が華やかに色づくような気がして嬉しかった。

その花は花びらの周りが茶色く変色しても、そのままテーブルの上に飾り続けられていた。花が萎れ、花びらが落ち始めてやっとニーナはその花を片付けた。

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