第8話 秘密とベッド

 ニーナは時々買い物へ行く。

ヘイヴンは人里から離れこんな森の中住んでるいるのだから、自給自足の仙人のような生活を送っているのかと思っていた。しかし、こんな若い娘が一人でそんな生活が出来る訳がない、町や村に出て買い物をするのは当たり前だ。

 ふと、ニーナはどこからその資金を手に入れているのかが気になった、薬草などはこの家の代償として提供していてお金は受け取っていないはずだ。


「ニーナ殿、買い物に行くときに、その…、資金は、何か売ってお金を得ているのか?」

「ふふっ…、秘密を知りたいですか?」 


イタズラな笑みを浮かべている。


 

 次の日、朝食を済ますと森の奥へ行くことになった、早速ニーナが秘密を教えてくれるらしい。魔獣を狩ってそれを解体して売る? 貴重な素材でもあるのか? などと思いを巡らせていた、ニーナは慣れた足取りで魔獣の森を進んで行く。


「早くないですか?」

「大丈夫だ」


傷はほぼ癒えたと言えどもまだ走ることは出来ない、ヘイヴンはニーナに遅れをとるまいと意地でついていく。しばらく歩いていくとニーナが足を止める。


「あれですよ。」 


「…え⁈」 


ニーナが指さす先には朽ちた荷馬車、もちろん馬も御者もいないが。


「魔獣は物は食べないですからね。 中、見てみますか? たまに商人の馬車が迷い込んでくるんです…。」


そう言いながらニーナは朽ちた荷台部分の中に入っていく、ヘイヴンは驚いて固まっている。


「もう半分くらいは売ってしまったんですけど… まだ結構あります、これを少しずつ売りさばいて…」


「あっはっは!! ニーナ殿は思ったよりもこざかしいのだな、まったくたのもしいものだ!」 

「あっ…これって何か犯罪になりますか??? そうだったら見逃し……あっ、捕まえてください?…」 


ニーナは焦って一度手に取った本を下に置く。


「ふふっ… 良いのではないか? もう誰のものではないし、誰も知らない物だ。見つけた者がどうしようと構わないだろう?」

「そうですか… ふふっ」 


 そう言ってニーナは置き去りになっている商品の中から数品持ち出していく。

思わぬ元手入手法で驚いたが、魔獣の森を自由に動き回ることが出来るからこその方法に感心すらした。

 

 帰る前に少し休憩をとることにした、ニーナだけなら多分すぐに終わるのだろうが、足をまだ引きずっているヘイヴンには結構な距離なのだ。      

魔獣の森はたいがい背の高い木の枝が茂っていて薄暗い。しかし、ニーナのお気に入りだというこの場所は少し開けていて明るい。草が厚く生い茂っていて、まるで分厚い絨毯が敷いてあるかのようだ。二人でそこに腰をおろす。すると、ニーナは勢い良く寝転んだ。


「あぁ~、ここの草は寝転ぶのに最高ですよ! ヘイヴン様もどうですか?」


 この突拍子のない行動に驚いたが、無邪気に笑うニーナの横にヘイヴンもやけくそ気味に寝転んでみる。


「おぉ、これは! そうだな… この弾力、なかなかだ!」 


 確かに気持ちがいい、ニーナはヘイヴンの隣で草をポンポンしてみたり、腕を広げて草を撫でたりしている。それから体を右に左へとゴロゴロしている、まるで猫のように丸くなったと思うとウトウトし始めている。ヘイブンはなんだか気恥ずかしくなって起き上がる。


「…なんだか眠くなってきました…、この前もこうやって…眠く…なって…うっかり矢を…… すぅ~…。」


「えっっ!!」 


思わず大きな声が出てしまいニーナは飛び起きる。


「あっ…! すみません…そう!あそこは魔獣の通り道で…でもあの時はいなくて、いつも気になっていた苔のベッドでゴロゴロしてて…」

「苔のベッド⁈」

「はい! あの時は苔のベッド、ここはモフ草のベッドです!! 私、ベッドにはこだわりがあるんです!」 

「ベッドにこだわりか、そう言えば…最近の私のベッドは固めだな、何か理由が?」

「はい、もうあまり薬草は必要ないと思いましたので… 次の工程は体力回復です! 剣を振るうにはにはまだまだですからね。」


「…寝ている間に…? 体力が回復するのか??」

「寝ることは生きることの基本です! 良いベッド、良い睡眠が一番なのです!!!」


「ニーナ殿の考えは本当に面白いな、だが…その通りだ。」

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