第7話 二人暮らし始めます
ニーナの家は魔獣の森の外れにあった。外れと言っても魔獣の森の中だ、外塀はしっかりしている。少し歩けば村はずれに出るという、つまりはヘイヴンにとっての隣国のアルトニア王国だ、魔獣の森はヘイヴンの国ファンデーヌ王国との境にあり誰もが避けるこの森が良い国境の壁となっていた、それぞれの森の端には騎士団による陣営である砦があり、国境警備も兼ね森からの魔獣の侵入を防いでいた。魔獣の森を抜けての国境越えを考える者は余りいない、たまに近道と考えて魔獣の森に入る考えなしな者もいるが大抵は森を避けて国境を超える。
ニーナが住む家は二人で生活するのに最低限であるくらいの大きさだ、誰も使わなくなった森の番人小屋だったのを少し手を加えて住みやすくしたそうだ。薬学の知識があったじじ様に村人が薬草の代価の代わりとして提供してくれたそうで、今はニーナが薬草や薬草から作る薬を提供しているという。
以前はじじ様が使っていたという部屋を使わせてもらうことになった、すでにベッドには薬草が敷いてあるのが臭いで分かる。じじ様が使っていたという服など使えるものがあったら使っていいと言われて気が付いたが、自分の服はボロボロだ…。所々破れているし血液の染みもひどい。自分がこんな姿で人の前、ましてや若い女性の前にいたことに恥ずかしさがこみ上げてくる。
「本当に…何から何まですまないね。」
「いいえ、国を守っていてくれる騎士様です、当然のことかと…」
「はは、騎士様はやめてくれ…、今はただヘイヴンと呼んでくれ。」
「…はい、ヘイヴン…様…、では、わたしのことはニーナと…」
「では、ニーナ殿…もう少し世話になるがよろしく。」
二人はお互い照れ笑いをする、この数日間に二人の間には笑顔が増えてきた。最初はお互いに腹の探り合いのようなもので妙な緊張感があった、ヘイヴンは痛みが少なくなり気が軽くなるとニーナと話すのが楽しみになっていた。ニーナのほうもじじ様が亡くなってからはずっと一人だったので、話し相手が出来て嬉しかったのだ。
こんな風に二人の生活が始まったが、ヘイヴンの傷の経過も良い、もしかしたら思ったより早く帰れるかもしれない。
ニーナの家に来てから数日が経つ頃にはヘイヴンは剣を握れるくらいに回復していた、これはニーナの薬草漬けおかげだろう。相変わらず、食事にもベッドにも、もちろん傷口にも…薬草だらけだ。
ヘイヴンは杖をついて歩けるようになると、ニーナの薬草採取に同行してみたりした。ニーナは何種類もの薬草の中から必要な物だけを採る、森の中に取りに行かないといけないものもあるが庭で栽培しているものもある。その中からヘイヴンの日々の状態に合わせて薬草を調合している、よほどの知識でなければ出来ないことだろう。
「じじ様は薬師をしていたのか?」
「はい、そう聞いています。」
「この国では有名だったのではないか?」
「さあ… じじ様はあまりそういったことは話しませんでしたから…。」
薬師はどこの国でも貴重だ、しかもこれほどまでに効く薬を作れるとなればなおさらだ。引退したにせよ、こんな森の中にいるということがあるだろうか…。もっと聞きたかったがニーナは目を伏せている…もう聞かないでという風に。
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