第6話 謎だらけのニーナ

  ヘイヴンは良い香りと共に目を覚ました。

怪我によって頭がもうろうとしているとは言え、魔獣の森で居眠りをするとは…。

今までは近くに炎を感じていたり、人の気配があって安心なようなものを感じ、それに甘えていたが… 一人でいることを知りながら居眠りをしてしまった自分が’恥ずかしかった。


「起きました? お水飲めますか?」


 帰って来た彼女は、あの素晴らしい髪を一つにまとめていて服装も普通の町娘といった感じだ。出会った時は長く垂らした白い髪の毛にシンプルな白いワンピースでどこか人間離れしていた、そんな恰好でこの森にいれば誰だって魔物とか精霊とか天使とか何かだと思うはずだ。


 ニーナはてきぱきとした手付きで火をおこし、何やら作り始めた。


「慣れているな、森へはよく?」

「そうですね… 今の家に住む前は森で暮らしていたので。」


魔獣の森で暮らしていた? そんなことが出来るのか? こんなか弱い娘が?


「あ… 今は一人で暮らしているのですが、じじ様がおりました。森のことは全部じじ様に教えてもらいました。」 


 ニーナは話し方が町娘らしくない、森に住んでいながらじじ様というのは教養があったのであろう。まぁ、どんな事情があるにせよ、魔獣の森に住みつくとはよほどのことであるのは確かだ。


「スープは飲めますか?」 

「ああ、頂こう。…ん? これは薬草か?」

「はい、傷の治りが早くなるように。」


 なるほど、見ると肉と野菜のほかに様々な薬草が入っているようだ。薬草の知識もあるとは…驚きだ。

そしてスープを一口飲んでみる、その独特な味につい顔をしかめてしまう。


「ふふっ…」 


 いたずらっ子のように笑ったニーナに対して、ヘイヴンは顔が熱くなるのを感じた。熱いスープのせいか?

体の芯まで何かが浸透していくような味のスープを飲みながらニーナを観察する、今では介助してもらえれば何とか起き上がれるようになってきた、彼女は新たに寝床に使う干し草などを持って来て交換しようとしている。


「少しこちらに動けますか?」 


 体を少しづつ動かすたびにニーナは下の草を手際よく交換していく。新しい寝床に横になるとふわっと嗅いだことのない香りがする、別の薬草かなにかか?


「これは…?」

「これは、薬草を干し草に混ぜて敷いています。傷の治りがなるように。あと、傷口を診ますね。」


 寝床に薬草を使うというのは聞いたことがないが、心地が良いことは確かだ。

彼女は毎日寝床の草を交換する、薬草は乾燥したものだったり新鮮なものだったり様々だ。傷口には薬草をペースト状にしたものを塗る、毎日傷の状態を診て深い傷ほど多く薬草を交換する。

聞くと、傷口の状態によって薬草の種類と配合を変えるそうだ。確かに足の傷口に塗ってあるものとは別に、腫れがひどい所に塗ってある薬草は少しスーッとする感じがするのだ。


 二日ほどすると傷の治りが早いことに気付く、これは気のせいではない。もう介助なしに起き上がれるし、腕も上にあげられるようになってきた、そして介助してもらえれば立ち上がれることも出来る。もちろん痛みはあるが我慢できる程度になってきた、いま痛みがあるのは腹と足くらいだ。


「あの…、そろそろ移動することが出来るのではないかと思うのですが、よろしければ私の家に…」


「…そ、そうだな…すまない。その言葉に甘えさせてもらうよ、本当に感謝しかないよ。」 


 頭を深々と下げる。ニーナは笑顔を返すだけだった。

こんな状況とは言え、森で会った知らない男を家にまで連れて行き世話をするなど…よっぽどのお人好しだな。森に置き去りにだって出来るはずだ、なぜここまで親切にしてくれるのか、何か魂胆があるのか?などとつい疑いの心を持ってしまいそうになるが、ニーナのどこか楽しそうな笑顔を見るとそんなことはどうでもいいか…と何か吹っ切れたようにヘイヴンも笑顔を返した。



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