第5話 話をしましょう
男が深い眠りから覚めると、白い女は火の始末をしてどこかに行くのか荷物を整えている。
「…お…おはよう…」
とそっと声をかける、女は一瞬びくっとしてゆっくりと振り向いた。
「おは…ようございます…」
「どこかへ?」
「はい…家に…」
おずおずとした態度だ、人慣れしていないのか?
取り敢えず何か話そうと思い口を開いたが、とてつもなくぎこちない!
「少しよろしいですか?ゴホンッ…まずもう一度お礼を…助けていただきありがとうございます。私はヘイヴン・フロンデースと言います。」
「…どういたしまして…、私はニーナと申します。」
「ニーナ殿は…その…森に詳しいのですか?ここは魔獣の森に違いないと思うのだが、いったいどの辺か分かりますか?」
「あの…、私は森の外れに住んでますので森のことはよく知っています、あ、ここはアルトニア国堺の近くになります。」
アルトニア王国、ヘイヴンは隣国ファンデーヌ王国の騎士だ、この2つの国は魔獣の森を境にして隣り合っている。自分が隣国に近い所にいるとなると少々厄介だな…とヘイヴンは言葉選びにより慎重になる。
「ニーナ殿がこの傷の手当てをしてくれたのだろうか?」
「はい、少々薬草のことを学んだので…すみません!勝手に手当など…」
ニーナが突然頭を下げる、ヘイヴンは慌てて言い返す。
「いや…!謝らないでください!!私はあなたに命を救われたのです!」
「…そんな…。」
「ニーナ殿、申し訳ないのだが…私はこんな体で動くことができない…迷惑ではなかったらもう少し手を貸していただきたいのだが…」
「はい、もちろんです!困ったときはお互い様ですからね、お気になさらず。」
少し話をしているに、ニーナは意外にもおしゃべりなのが分かった。この分ならば知りたいことは明日にでも全部知ることができそうだ。
「君は、私の目が怖くないのか?」
「…目?」
彼女が自分の目をじっと見ているような気がして聞いてみる。
彼女はなぜヘイヴンがそんな質問をするのか分からなくてヘイヴンの目をまじまじとのぞき込む。
「?… 素敵な目ですね。」
「そうか…。」
ヘイヴンは馬鹿な質問をしたと思い恥ずかしかった、恐ろしい目を持つものにそんな質問をされて、はい怖いです… なんて答える訳がない。黙ってしまったヘイヴンに対してニーナはどんどんと話を続ける。
「あ、おなかがすいてませんか? 何か食べたいものがあったら遠慮なく言ってください、こんな所なので簡単なものになりますが… 動けるようになったら私の家で少しマシなものが出せるようになりますので。」
「あ…ああ、すまない。痛みがひどいのであまり食欲がないんだ… でも簡単な物で十分だ、ありがとう。」
「では、そろそろ行ってまいります。弓は使えますか? 動けないとなると弓の方がよろしいかと…」
「ああ、使えないことはないが…」
「ここは魔獣の通り道より外れていますが、念のため…。」
そう、ここは魔獣の森だ、いつ魔獣に出くわしてもおかしくない。
起き上がることもまだままならないこの体では剣も…ましてや弓矢も扱えるかどうか…。
そっとヘイヴンのそばに弓矢を置いて彼女は去っていった。
剣士であるヘイヴンは弓はあまり得意ではない。
そのたしなむ程度の彼にでも分かるほどその弓は使いこなされていた、おそらくは彼女の手により馴染むように改良されている。あの夜の矢の正確さ、的確な矢の回避指示から彼女が相当な手練れなのが分かる。
右に!と言われたことで自然に体が動いた、ま…実際には動けなかったが…。 もしあの時の声が、危ない!とかだったらヘイヴンは咄嗟には動けていなかっただろう。彼女の指示はそれを見越してのものだったのか。とにかく、あの咄嗟の指示がなかったら彼の怪我はもっと酷いものだっただろう。いや、死んでいたか。
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