第4話 白い女と出会う
どのくらい眠っていたのだろう?
少しでも体を動かそうとすると体のあちこちが痛む、これでは起き上がることなど到底出来そうにない。
どうやら何者かにより傷の手当がされている、傷口は綺麗に洗われ大きな傷にはペースト状にされた薬草が塗られている。右足が動かない…何かで固定されているのもあるが、この痛みようでは折れているかひびでも入っているのか。
そして、地面の上には木の葉と毛布によって寝床が作られており、そこに横になっている。
もうろうとする頭でよく思い出してみる、気を失う前に見たもの…。
あれは何だったのか、ただ確かなのは何者かによって矢を放たれたということ。
人間の言葉をしゃべったのだから人間なのだろうが、人ならず者に見えた。
全身の痛みにより眠っていても悪夢を見ているようで深く眠れない時と、気を失ったように眠っている時がある。今は浅い眠りから覚めて目を凝らしているのだが、頭がぼうっとしていて視界もぼやけている。
しばらく動かずに辺りの様子を探ることにする、ふと誰かがこちらに向かって来るのを感じる。
人間だよな? 女だ、服装はおおよそこんな森の中にいるようなものではない軽装、それよりも…腰まであろうというウエーブがかかった長い髪、その色は真っ白だ。
その女が手にナイフを持っていることに気づいてハッとする。
俺の剣は?? 辺りを見渡す、剣は自分の寝ている横に置いてある。
剣を近くに置いてくれるということは、この女は俺を警戒していないということか? まあ、どの道この体では剣など持つことは出来ない。
一度はこの女に矛先を向けられて死を覚悟したが、今は何も殺意を感じない。あれは何だったのか、狩りをしていて獲物と見誤ったのか? とにかく今はもっと情報が欲しい。
少し起き上がろうとしたがやはり無理だった、思わずくっと声が出てしまった。
女がこちらに気づき少し近くにやって来た、近くで見ると髪の毛だけでなく肌も透き通るように白い、それにしても美しい…やはり人間ではない?どうしていいか分からないでいると、困惑顔に気づいたのか女はそっと話し出す。
「無理しないでください。」
人間だ、それにしても声まで美しい。女はじっとこちらを見ている…何か言わなければ!
「…あ、君が助けてくれたのか…ありがとう。」
「は…はい…」
女はそう言ったきり黙ってしまった。
それはそうだろう、こんな魔獣の森で死にかけの男といるのだから。
しかし、どんないきさつにせよ女一人でいたのか?何者なのだ?様々な疑問が頭の中をぐるぐると回っていて言葉が出てこない。
そんな俺を心配してか、女はより一層近くに来て俺の顔を覗き込む。
「あの…顔色が悪いです、今はゆっくりと休んでください…。」
白いまつ毛にふちどられた大きな目はこの深い森のような緑がかった灰色のような不思議な色をしている、その瞳がじっとこちらを見ている。
ハッとして思わず目を伏せる、俺の瞳は不吉とされる色をしている。昔から人々を恐れさせるこの色、忌まわしい赤色。自分を恐ろしい化け物と思わせるこの目。彼女にこの目を向けたくない…目をぎゅっと閉じる。
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