第3話 放った矢の先

 人間はなんとか私の矢をかわしたが、よろけて倒れた。

ちょうど後ろでその人間を襲おうとしていた魔獣に矢は当たり、魔獣は倒れた。

人間に合わせていた標準は魔獣の急所を外したが冷静にもう一発矢を打ち込んで止めを刺した。


 我ながら良い腕だわ!


と感心している場合ではない。

この人間の男、どうしたものか… 体中のこびりついている血でよく見えないが怪我をしている、腹の傷はかなり深そうだ、足の状態もかなり悪い…倒れた時に頭を打って気を失ってはいるが息はある。


 しばらくは死なないだろうから放っておこうか、しかしここに置いておくと魔獣に襲われてしまうかもしれない、そうなるとせっかく見つけた最上の苔の寝床がこの男の血肉で… それは気分が悪い。しょうがない、移動するしかないか…。

しかし、女の自分にはさすがに男を担いで長距離を移動するのは無理だ、とりあえず魔獣の目の届かない場所に男を引きずって行くことにした。簡単に作った担架のようなものに男を転がして載せて引っ張っていく、これなら男の血の跡を残すことはない、魔獣のなかには鼻の利くものもいてそれに見つかると厄介だ。


 こんな森の奥で人間を見るのは久しぶりだ、ちょっと緊張する。

火をおこし、寝床を作り、男をそこに移動するとこの状況に一体どうしたものか考え始める。

男の足の具合からしてしばらくは歩けないだろう、この場所に足止めになる。

魔獣に襲われた傷は衣類を破り剝き出しになっている、かろうじて残っている男の服、剣を所持していることからしてこの男は騎士なのであろう。

騎士なのであれば野営の心得もあるだろうから、ここにしばらくいても大丈夫なはず。


 とりあえず傷の具合を詳しく見てみよう、早く安全な所に移動できるように足から治さなければ…。

足は折れてはいないようだが、もしかしたらひびははいっているかもしれない。血がべっとりと付いている体を拭いていく。やはり大きな傷は腹だ、左側は噛みつかれたのだろう…しかし喰いちぎられてはいないのが幸いだ。傷口にはいつも常備している薬草を取り敢えず処置しておく。他の傷も同じく処置していく、足には添え木がいるし薬草ももっと必要だ、動けないなら食事も何とかしないといけない。


 う~ん… なかなかの面倒ごとになりそうだわ…。


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