第2話 私の苔ベッド
背中に弓矢を背負い、おおよそ魔獣の森を歩く格好ではない娘は長い髪をなびかせ静かな森の中を慣れた足取りで進んでいく。
今日はどうしたんだろう? 魔獣の数が少ない…また討伐隊が出たのかしら?それとも迷い人?いつもここにいるあのイヤな魔獣もいない。
それよりも、今はこの場所を堪能したい!
湿気がたまる地形なのか、地面はびっしりと分厚い苔で覆われている。
いつもは魔獣がウロウロしていて近づけないこの場所は、前から気になっていたのだ。遠目からでも分かるほど見事な深い緑色の苔、そっと触れてみる。
まるでベルベットのようにしっとりとしている。しかも今日は日に当たっていたせいかほんのりと暖かい。
「あぁ…、最高だわ!!」
まずは手で弾力を楽しむ、それからドサッと苔の上に寝転がる、手足を伸ばして苔の感触を楽しむ、ゴロゴロと転がってみる。思っていた通りの素晴らしい感触!
そんなことをしているうちに睡魔が…。
今日は魔獣が来る気配もないし、少し寝てしまおうかしら…
柔らかな苔の上で目を閉じウトウトし始める…その時、何かが近づい来る気配を感じる。
何だ…もう戻って来たのね、残念。…ん? 怪我をしている? 足を引きずっている?
あぁ、ここに来る前に倒れてしまわないかな…
あれ? もう一匹いる… 何だろう、この気配…まあいいわ…どちらも手負いのようだし、一気にやってしまおう!
あぁ、もうこんな近くまで来た…もうちょっと苔ベッドを楽しみたいのに!!
まだ目を開けられずにどう動くか考える。
まずは一匹目の頭に一発、それから後ろのやつ…直前まで引き付けて確実に急所に当ててやる。
この魔獣はどうしてもこちらに来たいらしい。
すでに射程距離に入ってきた、もう限界まで待った、頃合いだ! サッと身を起こし、起き上がるのと同時に弓を構えて矛先を獲物に向ける。
その瞬間目にしたのは…
人間!!
狙いを定めた瞬間矢は放たれた、
間に合わない!
「チッ…右へ!!」
この人間の身のこなしが早ければ間一髪避けられるはず…。
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