第18話 拾われなきゃ良かった!

「じゃあ、ご飯も食べたことだし、オレが眠らせてやるよ」

 ガキも家に連れ帰ってきたことだし、とりあえず寝かせておくか。

 オレは、アウローリアを羽交締めにする。

 そして右手で彼女の肌に──


「何この変態! ノクシア! どうしてこんな男と交渉なんてしたの?」

「お前の夜更かしをしてもらうためだ。それと、俺のことは『お母さん』と呼べって言ってるだろ?」

 巨女は、やれやれとため息を吐きながら皿を洗う。もちろん、だ。


 キッチンに浮かぶのは水でできた球体。

 その中に浮かんだ食器はぐるぐると回転している。

 傍には食卓を拭いたりなど、雑務をするモネア。

 ちなみにラナは、隣の部屋で入浴中だ。

 対するオレはと言うと、

 リビングの隅で、ロリを拘束して強制睡眠する真っ最中だった。


「矯正って何! お母さんだって今朝、朝まで起きてたでしょッ?」

「今はお前の話をしているんだ、アウローリア。ちゃんと寝て、睡眠値を稼いでほしいんだよ、お母さんは。だから──」

「いつもそうだよねッッ!」


 するり。

 と、オレの腕から抜け出すロリ。

 あ、今オレ韻踏んだなチェケラ。


「お母さんはいつも、自分の意見を押し付けるだけ。どうせアウのことなんて、『自分の研究を引き継ぐ素体』とでも思ってるんでしょ?」

「そんなこと──」


「うるさいうるさい! こんなことなら、ノクシアなんかに拾われなきゃ良かった! 実の子でも無いのに、一々口出しして!」

 そう吐き捨て、アウローリアは自分の部屋に閉じこもった。


「いいの? ノクシアさん、あの子追いかけなくて……」

 モネアは心配そうな表情で巨女を見上げる。

 けれど、


「追いかけて、何て声をかけたらいいんだ? 俺は」

「それは──」

 ノクシアさんは葉巻を吹かせた。

 その表情に怒りは無い。

 寂しさや悲しさの詰まった顔だ。


 そうだよな。

 アウローリアは彼女に『拾われなきゃ良かった』と言った。

 それは親として生きてきた、ノクシアさんの人生全てを否定する言葉。


 怒りを通り越して、虚しさしか残らないハズだよな。

 オレも仕事で『お前に任さなきゃよかった』って言われたことあるからな


「アウは、俺の親友の忘形見なんだ」

 口から煙を吐き出し、

 ノクシアさんは窓の外の月を見上げる。


「親友には義理があるからな。だから、アイツに顔向けできるような、立派な親としてやってきたつもりだった。けど、どうやら俺はどこかで間違ったらしい」

 最後に大きく煙を吐く巨女。

 そして、


「そこの客室に泊まってくれていい。俺はもう少し研究を続ける」

 彼女は廊下の奥──魔術工房へ歩いていく。


「その研究、そんなに大切なんですか? きっとアウちゃんは、ちゃんとお母さんと話すことを望んで──」

 すると、


 ノクシアは振り返り、自分の口の前に人差し指を立てた。

 瞬間、

 モネアの口は閉ざされ、言葉は中断される。


「アウローリアの親は病気で死んだ。俺は、彼女の親を救えなかったんだ。そして、アウ自身も『同じ病気に侵されている』。だから──」

 ノクシアは扉を開け、


「温泉地を拠点にした。だからアウには、たくさん寝て丈夫に育ってほしいんだ。俺が病気を治す術を見つけ出す前に」

 魔術工房の中に消えていった。


 そうか。

「全ては自分の娘──アウローリアのためだったんだな」


 けど、アウローリアは気付いていない。

 話を聞いてくれないから、『自分は愛されていないんだ』って思い込んでるんじゃないか?

 だとしたらそんなの、悲し過ぎるよな。


「オレ、ちょっとアウローリアと話してくるわ」

「いいの? フェイン。きっとあの子、今は一人になりたいんじゃないかしら?」

 オレの腕を掴むモネア。


「確かに、人生には一人の時間も必要だ。けど、アイツの悲しみは『一人で背負えるもの』なのか……? オレはかつてんだ」


 社畜だった頃──


「一人で考え過ぎて、精神のバランスを崩したヤツを。少し心配なんだよ、アウローリアが」

「ホント空気読めないわよね、アンタ」


 ハァ〜?

 この女、わざわざダメ出しを?

 二回攻撃アビリティ持ちか……?

 すると。


「でも──」

 モネアは呟いた、夜風よりも小さな声で。


「他人のために何か行動しようとしてる──そういうところは、評価してなくもなくなくないわよ」

「え、何て? 告白?」

「ああもう! 『そういうとこ』よ! 私のことなんてどうでもいいから! さっさと様子見てきなさい!」


 オレはモネアに蹴り飛ばされた。

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