第17話 幼魔術師は夜更かしに憧れる!

「ようやく見つけたぜ、クソガキ」

 夕暮れの温泉街──

 その片隅で、オレは木の上の少女に話しかける。


 魔女のような紫のローブ。同じく紫のとんがり帽子。

 黒髪のナチュラルボブ。

 服は全体的にブカブカ。

 正に、『服に着られてる』って印象だ。

 年は十歳になるかならないかってとこか。


 このガキの夜更かし癖を矯正する──それが賢者との契約だった。

 だからこそ、日が暮れる前に家まで連れ戻さなきゃいけないんだが……。


 ガキは木の上に登り、オレたちに中指を立てている。

 煽る時中指立てるのって、異世界でも共通なんスね〜。


「もう夕暮れよ。さっさと降りてきなさい。私たちは、貴女の親から面倒を見るよう──」

 オレの隣に立ち、モネアも一緒に呼びかける。


「親? フフン。バカ発見」

 木の上のガキは大きくため息を吐く、こちらに聞こえるよう。


「本当の親なら、自分で迎えに来るでしょ? でも、来ないもんね。アウより──わたしより自分の研究が大事だもんね」


 あのガキ、完全にこっちを警戒してんな。

 せめて、ラナも一緒なら説得の可能性はあったが……。

 ガキを探すため二手に別れたんだよな〜。

 とは言え、既に陽は落ちかけている。

 合流を待つ時間は無い。


「へえ、お前の名前、『アウ』って言うのか?」

 瞬間、

 オレは飛び上がりガキの背後──太めの木の枝の上に着地した。

「アウは、アウローリアって名前があるの! 勝手に愛称で呼ばないで!」

 オレはガキを無理矢理肩に抱え、木の上から飛び降りた。


「よろしくな、あうあうロリ女」

「『アウローリア』よ! って、勝手に体触らないで!」

「じゃあ許可申請するわ。肢体カラダ、触りますよ」

「そんなのいけないから! 変態男!」


 ジタバタと暴れるロリ。

 が、

 オレから逃れられるハズもない。

 ノーダメージ余裕ですわ。


「あまり舐めるなよ、この変態男オレを……!」

「い、いけないんだ! アウ、お昼寝も入れて毎日十時間は睡眠してるけど? 睡眠時間が全ての世界で、健康優良児であるアウに逆らうなんて──」

「で、ロリは睡眠値レベルいくつなんだ?」

「四!」

 満面の笑みのロリ。

 スマンな。オレの睡眠値レベル13,700,000,000なんだわ。


「なあ、モネア、このロリ眠らせていいか?」

「いいわよ」

「いいわよじゃないの! 寝たくないの! 帰るのイヤなの!」


「貴女、どうしてそんなに夜更かしがイヤなの?」

「そんなの決まってる! 『夜更かしすると魔物に連れ去られる』大人はそうやって子どもを脅す。けど、大人はみんな夜更かししてるでしょ?」


 つまり、夜更かしに関する不平等がイヤなのか、このロリは。


 確かに、この世界は睡眠時間=戦闘力。

 子どものうちから睡眠をしっかり取れば、その分だけ丈夫に育つよな。

 子どもを早く寝かせたい親の心理は分かる。


 けど、子どもだって寂しいよな。

 大人はもっと起きてるのに、自分たちだけ眠るなんて。

 損してるような感覚かもな。


 あーあ、平均睡眠時間三時間の頃のオレを見せてやりたいぜ。

 あのやつれ具合見たら、一発でベッド入るだろ。


「アウローリア、お前、もっと親と一緒に過ごしたいのか? 『子ども扱いがイヤ』なんじゃねェのか?」


 その問いに彼女は答えなかった。


 このロリの夜更かしを阻止すれば依頼達成! 呪いも解けて一件落着だ──

 そう思ってたが、単純な問題じゃなさそうだな。


 モネアの呪いを解く前に、このガキの呪いを解く方が先かもしれない。

 大人への不信感って呪いを。

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