第16話 聖者の村-セレナバド!

「フェインさん! 姫様! 着きましたね!」

 ラナは馬車から降り、どこかを指さした。

聖者セレナバドです!」


 外から漂う硫黄等薬品の匂い。

 これは──


 馬車を降りた先──熱気漂う山岳地帯が広がっていた。

 遠くに点在する間欠泉。その近くの岩は茶色や緑色に変色している。


「セレナバド、温泉の湧き出る村ね。聞いたことあるわ」

 馬車から降りるモネア。


「『でも早いわね。温泉シーンでテコ入れなんて、アニメの10話とかでやるヤツなのに』モネアは思慮深く呟いた」

「独り言言ってないで行くわよ」

 ため息をつきながら、モネアはラナの後を歩く。

 この塩対応、モネア的に温泉回はO V A派か?

 オレも彼女たちの背を追いかけた。



 

 セレナバドは、

「面白い町だな! 町の至る所を流れる川が全部温泉だなんて!」

 まるであみだくじだ。

 町の隅々まで、温泉水が川の如く流れている。


 社畜的にもポイント高いぞ!

 これなら、体の疲れも気軽にほぐれるだろうからな!

 この町なら、週八で仕事入っても何とかなるかもしれない。


「面白い町ですよね、フェイン様! でも、この町のスゴさは温泉の効能だけじゃないですよ!」

「確か、この町に住む賢者が、解呪にも長けてるんでしょ?」

「そうなんです! その賢者なら、姫様の呪いも解いてくれるかと思って!」


 ラナは立ち止まり、すぐ傍らの家を指差した。

 丸みを帯びた輪郭の、横長な一階建だ。

 けど、一階建てにしては少しサイズが大きいような?


「ここです! その賢者様のお家は! じゃあ、尋ねてみますね!」

 ラナはニコニコ笑顔で玄関をノックした。

「もしも〜し!」

 その瞬間──


 玄関の扉が吹き飛ぶ。

 爆風に巻き込まれ、家よりも高くぶっ飛ばされるラナ。


「おお〜、楽しそうだな!」

「たたた、助けてくださいッッ!」

 手足をばたつかせ、ラナはオレを見つめる。


 相変わらず元気だな、ラナは。

 オレは飛び上がり、彼女を抱き止める。

 そして、適当な家の屋根に着地した。


 すると、さっきの家から逃げ出すガキが目に入った。

 後から出てきたのはとんがり帽子の巨女。

「ききき、きっとあの人です! 私が言ってた賢者様は!」

 また手足をばたつかせるラナ。


「でっっっっ──」

 あの巨女がくだんの賢者か。

 にしてもあの賢者、そこらの家の屋根くらいはあるよな?

 ラナだって身長は大男以上なのに、あの賢者、どんだけデカいんだ。

「か……!!!」

 オレは屋根から飛び降り、巨女の前に着地した。


「いいい、いきなりすいません! わたしたち話があって──」

「皆まで言うな」

 巨女は手を挙げ、ラナに制止をかける。

「お前たちの要件は。そこの姫の呪いを解いてほしいんだろ?」

「腕の良い解呪師ってのは、マジなようね」

 感心したように頷くモネア。


「確かに、これなら話が早いな! どうにかモネアの呪いを解いてくれないか? とにかく、今急ぎなんだ!」

「それも知っている。王都が大変なんだろう?」

「なら──」


「でも、まずは『金』。話はそれからだ」

 厳しく吐き捨てる巨女。


 でも、当然だよな。

 ビジネスの世界では、金が命。

 まあ、給料未払いする会社もあるけど(例:前世の勤務先)。

 だからこそ、金の重要性は分かる。


「よし分かった! 頼んだぞ財布ラナ!」

「わわ、わたしを財布呼びしないでくださいッッ!」

 涙目で頬を膨らませるラナ。


 確かに、今のは失礼だったよな。

 オレもデリカシーが無かった。

 反省しなきゃだ。


「せめて財産ラナとか命綱ラナとか言い換えて──」

「そういう問題なのッッ?」

 ため息をつくモネア。


「とにかく、お金は払うわ。いくらなの?」

 モネアに耳打ちをする巨女。すると、次第にモネアの顔色が変わった。


「そ、、アンタ正気ッ……?」

「俺は正気だ。姫様こそ正気か? その呪いを直せば、国の暴動は鎮圧できるだろう? つまり──」

 怪しい笑みを浮かべる巨女。


「これはッ! それを姫様は『』だって? 俺からしたら安く思えるぜ?」


 確かに、

 巨女の言うことは筋が通っている。けど──


「そんな大金、後でいくらだって……」

「いいや、ダメだね。もし今払えないってんなら──」


 巨女は真っ直ぐと、道の向こうを指差した。

「さっき出て行ったガキ、いるだろ? アイツをちょっと理解わか。それを交換条件に、呪いを解いてやる」


 さっきのガキを?

 どういう意図か分かんねぇ。

 でも、


「一刻も早く国を救わなきゃいけない! やるしかねェよな!」

「契約成立、だな」

 オレは巨女の手を取った。

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