第14話 夜明けの旅立ち!

「じゃあ、我々親衛隊は、モンストグォルスクへ戻ります……グスッ! 姫様ひべざばお元気でッ!」

「達者でね、みんな」


 街外れの草原、

 日の出前の暗がりに、彼等──モネアと兵士たちは立っていた。

 民家の明かりもあまり届かない中、兵士たちはモネアの顔を真っ直ぐ見つめている。


 あ〜、良い上司と部下の関係性!


 きっとモネアは、コイツら兵士や王都の民たちから慕われてるんだろうな。

 寝ずに、命を削ってまで、国のため尽力してるんだ。

 当然だよな。

 オレもこんな上司の元で働きたいくらいだもん。

 なのに──


 王都で革命の兆し?

 確かに、前国王を殺した怪物って噂は衝撃的かもしれない。

 けど、こんな愛国者の姫を追放するなんてバカげてる。

 噂を流した犯人は、国を乗っ取るつもりなのか?


 すると、兵士たちは軽く会釈した後、乗っている馬を走らせた。

 小さくなっていく兵士たちの背。

 モネアはそれを最後まで見守っていた。


「じゃあ、行きましょうか、魔王討伐に」

 お団子ツインテールを揺らし、振り返るモネア。

「ん? ?」


「は? 私と一緒に行動するなんてよ。アンタ、私の奴隷になるって言ってたでしょ?」

「いや、『社畜どれいなら経験がある』って言っただけだからな?」

「似たようなものでしょ」 

 やれやれと、ため息をつくモネア。


「お前、どうして思考がブラック寄りなんだよッ! 民の前だとホワイト企業って感じなのにッ!」

「よく分からないわ。この国の言葉で喋りなさい」

「腹立つ〜」


「と・に・か・く!」

 モネアはオレの首輪を掴む。

「アンタとは契約上の主従関係。そもそも、私はまだアンタを信用してないの。そこだけはハッキリしておきたいだけ」

「ま、そういうキャラほどんですけどね」

「腹立つわ〜」


「そもそも──」

 オレはモネアの腕を掴む。

「既に、魔王は無力化したんだよ。だから、前提が間違ってる」

「無力化? まさかをまだ擦るつもり? 睡眠値レベル13,700,000,000なんてバカげた数字、子どもしか騙せないわよ」

「それはそう」


 しまった〜!

 言われてみれば、平均的なオッサンが睡眠値レベル10とかの世界で《あんな桁》出して、

「魔王無力化しました!(笑)」

 とか、嘘くせェ〜!


 この女、どうしてこんなオレに当たり強いんだ?

 って思ってたけど、納得しかねェわ。

 モネアにオレの言葉を信じさせるには、を待つしかないのか?

 でも、待てよ……?


「つまり、オレの戦闘力をお前に認めさせればいいんだよな?」

 瞬間──


 オレは目にも止まらぬ速さで、

 モネアの肩やら腰やら、何から何までをほぐす。

 そして、その感覚は一瞬の内にモネアの体を駆け巡った!


「う、嘘でしょッ……? 私の体が、いる……?」

 頬を紅潮させ、息を荒げるモネア。

「肩も腰も足も、マジで軽いわッ! 寝ずに酷使させた体が、快眠した日の朝みたいに『回復』しているッ!」


「見えたか? 今、。つまり、それくらいオレの戦闘力は高いってワケだ!」

「く、悔しいけど、マジで強いようね。かといって、魔王を無力化なんて──」

 彼女が言いかけたその時──


「ままま、待ってください! わたしも一緒に行きます!」

 街の方から一人の女の子が駆けてきた。

 高い身長。ふわふわのピンク髪。垂れた目。そして、軽めの鎧。背負う丸々とした荷物。

 魔王討伐の時出会った綿菓子女だ。


 さっき落ち合って、『準備』を頼んで良かったぜ。


「ようやく来たな。えっと、ラララ……」

 何て名前だっけ?


「ラナです!」

「そう、ラナだ。今言おうと思ってた」

 オレは彼女の手を取り、ブンブンと振る。


「姫騎士様、確かにフェインさんはおかしな人です! でも、魔王を無力化したのは本当ですよ!」

「貴女、ちょっと前に私が仕事を斡旋した子ね。証人がいるなら、信じるわ。けど──」


 モネアは、再びオレの首輪を掴む。

「『どうしてもっと早く言わなかったの』か? それには理由がある」

 オレはそのままモネアを抱え、ラナに目配せした。


「わわわ、分かりました! フェインさん!」

 一本の巻物スクロールを開くラナ。

 すると、それは一人でに展開し、目の前に大きな塊を作り出した。

 まるで絡まった釣り糸だ。


 これがラナの言っていたか。

 なかなか画期的だな。

 魔法が使えない人向けに、使い切りの魔道具──巻物スクロールなんてモノがあるんだから。


 巻物スクロールからページは際限無く伸び、塊は徐々に何かの輪郭を取る。

 そしてそれは、馬と馬車のような形に収束した! 


「マジで意味分かんない。巻物スクロールの馬車? ってか、ラナ、貴女はこれでいいの?」

「はい、私は姫騎士様に恩返しがしたいので!」

「恩返し? そもそもアンタたち、私をどこへ連れてく気?」


「分からないのか? 姫騎士さま」

 オレは彼女を抱えたまま、馬車の荷台に乗り込む。


「今から、お前の呪い──寝ると怪物になっちまう呪いを、んだよ」


「ハァ!? 私は一刻も早く王都に戻らなきゃならないの!」

「けど、呪いを解かなきゃ、お前は疑われたままだ。つまり──」

 オレは抱えていたモネアを荷台に下ろす。


「速攻で呪いを解き、王都の革命を阻止する! それしか無いだろ、──


「じゃあ、行きましょうか、フェイン様!」

 ラナが荷台に乗り込むと、馬車は一人でに動き始めた。

「勝手に話を進めないで! 私の話を聞きなさいってば〜!」


 タイムリミットは、

 それまでにモネアの呪いを解き、革命の首謀者を炙り出すんだ!

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