第12話 泣き寝入りの姫騎士!

「首輪をオレに付けろ。社畜どれいなら既に経験してる」


 オレはそう言って、カッコよく首輪を投げ渡した。

 投げ渡した……!


 オレの投げた首輪──従僕の首輪は、目にも止まらぬ速さで飛んで行った!

 そして!


 

 


「やっべ〜、力加減めちゃくちゃミスったw」


「ハァ? 何やってんのアンタッッ!」

 モネアはオレの胸ぐらを掴む。


「従僕の首輪は、どちらかが死ぬまで対象を従え続ける呪具! つまり今、のよッ!」

「その節は誠に申し訳ないですッ!」


 モネア崩れ落ちるようにしゃがみ、

 自分の膝に頭をうずめた。

「今の私は、国も民も、全てを奪われたのと同じ。みんなのため、寝ずにがんばってきたのにッ! どうしてこんな目に……!」


 そうだよな。

 姫騎士さまは、全てを背負って生きてきたんだ。

 国も民も妹も、両親の死すらも──

 マンティコアになる呪いをかけられても、不眠不休で国を支え続けた。


 オレのミスは、彼女が積み上げてきたものを台無しにするようなものだった。

 なら、全てを彼女に捧げる以外、責任を取る方法なんて無いよな。


 オレは懐からもう一つ首輪を取り出す。

「もう一つの首輪をオレに付けろ! それで対等だ!」

「拘束具いくつ持ち歩いてんのッ? マジでキモイわよ!」

「反論できね〜」


「そもそもね」

 モネアは大きくため息をついた。


と、お揃いの首輪なんて付けたくないのよ!」

「すげ〜反論したいけど全部身に覚えあるーッッ!」


「それに、対等も何も、最初からアンタなんてッ! アンタに首輪を付けたって、まだ足りないのよッ!」

「なら、こういうのはどうだ?」

 オレはモネアの傍らにしゃがみ込む。

 そして、彼女を抱き起こした。


「『もう一つの首輪でオレを従えろ』これは命令だ」

「ハァ? そんなのに従うわけないでしょ?」

 モネアはオレの腕を振りほどき、一歩後ずさった──


 ハズだった。

 モネアの体は彼女の意思に反し、オレの手から従僕の首輪を奪い取る。

 そして、オレの首にそれを装着した!


「『対象を従え続ける首輪』だよな? だから今、オレはお前に命令したんだ。『オレを従えろ』ってな」

「もはやどうでもいいわ。『この国の主としての私』は、もう終わったのよ」

 モネアは足元の小石を蹴る、

 苛立った様子で。


「私は単なる、国王殺しの醜い怪物なの。しかも、。最悪……」


 ……。

 何か引っかかると思ってたけど、もしかして──


「自分が国王を殺したって意味か?」

「それ以外にどういう意味があるの? 私が目覚めたら、両親が消えていた。つまり、私は寝てる間に怪物と化した。私が二人を食べちゃったってことよ! 二度と思い出させないでッ!」


か……」

「それが何?」

 モネアは苛立った様子で応える。


「街のヤツらもそう言っていた。つまり、現場には何の痕跡も無かったんだろ?」

「だから?」

「けど、マンティコアが人を喰ったなら、。消えたって言うからには、血痕すら無かったハズだよな? つまり──」

 モネアは黙ったままオレから目を逸らす。


「お前が両親を喰ったなんて証拠は無いんだ。むしろ、──そう考えられないか?」


 顔を上げ、こちらを見上げるモネア。

 その瞳は少し大きく開かれ、明らかにオレの話に興味を示していた。


「モネア。一緒に、この謎を解き明かそう。そうすれば──」

 オレは彼女に手を差し出した。


「きっとお前の呪いも解け、両親も見つかる。そう思わねェか?」


「別に──」

 そっぽを向くモネア。


 まあ、そうだよな。

 こんな男のこんな申し出、明らかに怪しい。

 耳を貸さないのも当然だ。

 その時──


 柔らかなものがオレの手を握った。


「別にアンタの話を信じたワケじゃないわ。けど、調べてみる価値はあるかもね」


 オレの手を握り返す柔らかな何か──

 それはモネアの手だった。


「少し、行動を共にするだけよ? 父の失踪の真相が分かったら、アンタの息の根止めて、従僕の契約なんて解除してやるんだから」

「ありがとな、モネア! そんで、これからよろしく!」

 オレが笑いかけると、またモネアはそっぽを向いた。

「まだ名前で呼ぶのは許してないわ」


 その時だった。


「こんな所にいたんですね、姫騎士様!」

 林の間から、一人の男が駆けてきた。

 確かアイツは姫騎士親衛隊の副隊長。

 今朝会った男だ。


「えっと……、今王都では良からぬ噂が流布されているようでして、その……」

 男は視線をあちこちにやりながら、しどろもどろに話す。

「良からぬ噂? どういう意味かしら」


「そうなのです。その噂のせいで国民たちは惑っているのです!」

「要領を得ないわね。一体どういう噂なのかしら?」

「それは──」


 男は息を整え、真剣な眼差しでモネアを見つめた。


「姫騎士モネア様が、です」

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