第11話 姫騎士の悪夢!

 姫騎士モネアこそがマンティコアだった……?


 大樹の根元、

 月明かりだけが、横たわる少女を照らしていた。


「ラナ、オレは彼女を介抱する。お前は侍女を呼んできてくれ!」

「わわわ、分かりました! けど、この状況は……えっと……」

「とりあえず、ここで見たことは秘密。姫騎士が見つかったことだけ伝えるんだ!」

「はい!」


 応えるや否や、街に向かって駆け出すラナ。

 にしても、この状況はどういうことだ?


 国王夫婦が失踪した原因であるマンティコア=姫騎士ってことなのか?

 いや、それは本人に訊けば分かることだよな。

 モネアの傍ら、オレはしゃがみこみ、彼女の肩に手を──

 瞬間──


 オレの顔を薙ぐ一閃。

 刃に月光を反射させながら、

 斬撃がモネアによって放たれる!


 完全に首の致命傷を狙った一撃!


「危ね〜! 死ぬところだった!」

 オレは左手で刃をつまみ、攻撃を止めた。


「マジで殺そうとしてんのよ!」

 姫騎士はオレごと剣をブン回し、

 ハンマーの要領で、オレを思いっきり大樹にぶつける!


「殺そうと? どうしてだよ!」

 オレは迫り来る大樹の幹を足場に、大きく飛び上がる。

 ゲームで言う壁ジャンプだ。


「マンティコアから人間に戻れて一件落着じゃないのか?」

 そしてオレは、

 適当に折った木の枝数本を、ダーツのように彼女へ投擲した!

 木の枝はモネアの衣服だけを撃ち抜き、大樹の根へ磔にする。


 よし。

 これで姫騎士さまを無力化できたな。

 このまま休戦して、彼女と話を──

 そう思ってたのに……!


「私は、。そういう呪いなの」

 モネアは大きく跳躍した、磔の服が破れることなんてお構い無しに。


「私が怪物だと知れれば、国は大混乱。それを治めるべき父は、既に死んでいるッ! 貴方が秘密を漏らせば、私は追放される。けど、今のッ!」

 姫騎士は、剣をレイピアのように構え、切っ先をオレに向けた!


「だから、オレを殺して口封じってワケか」


 コイツ、落下しているオレを串刺しにするつもりかッ?

 確かに、対人ゲームでも着地狩りは鉄板!

 いくらオレの体が打たれ強いとはいえ、刺突を耐えれるか分かんねェ!

 どうにか避けねェと!

 その時──


 モネアの剣は、オレの肉を貫いた……!


 オレが丹精込めて焼いた肉を。

 モネアの剣にはいくつもの肉塊が連なり、完全に串焼き状態だった。


「ふ〜、魔王の獄炎でBBQ《バーベキュー》してて助かったぜ」

「魔王城でBBQ《バーベキュー》をッ!?」


「社畜だった頃、オレもけっこう余裕無かったぜ? 今のお前みたいに」

 着地したオレは大きく後ずさり、モネアから距離をとる。

「けど、そういう時は大体、睡眠か食事か太陽の光が足りてねェんだ。一旦、その肉食ってみようぜ? そしたらきっと──」


「口を閉じなさい! 姫騎士モネアの名をもって命じるわッ!」

 剣から肉を振り落とし、モネアは再び剣を構える。


「睡眠が足りない? 私は眠れないの。。だから、私は親を亡くして以来、一睡もしてなかった。なのに──」


 ふとオレは、今朝の出来事を思い出す。

 つまり、オレが彼女を眠らせたから、彼女はマンティコアになっていた……?

 なら、今日の騒動は全部、オレのせいじゃないか!

 あの時、言っていた言葉──

 『ダメよ! 私が眠ったら』ってのも、『私が眠ったら怪物になってしまう』ってことかよ!


 だとしたら尚更、オレは彼女を助ける『責任』がある。


「幸い、今日は誰も殺していないみたい。けど、眠ってしまえば、いつか私の両親みたいに犠牲者が生まれる。だから私は、眠っちゃいけないの」

「『犠牲者を出さないため』って、そんな生活を続ければお前の命が──」


「構わないわッ!」

 モネアは叫ぶ、狂気を感じる形相で。


「私が死んだって妹がいる! 怪物になって国の誰かを犠牲にするくらいなら、このまま私が死ねば解決なのよ! それが国を任された私の誇りだから!」


 国や民のため自分の身を犠牲に、か……。


 コイツは本当に、前世のオレと重なる。

 違う部分があるとしたら──


 それはモネアが、

 ってことだ。


 こんな生活を続けていれば、彼女は死んでしまう、前世のオレみたいに。

 だから──


「一緒に考えるよ、モネアの呪いが解ける方法を」

「そんな言葉、誰が信じる? この秘密を知られれば、国は分裂してしまう! だから私は、お前の口封じをしなきゃならないんだ! 全ては妹に、この国の未来を託すために……!」


「なら、提案だ」

 オレは懐から一つの首輪を取り出した。

 マンティコアを捕獲するため、商人から貰った首輪だ。


「従僕の首輪──この首輪を付けられた者は、主の命に絶対従う。怪物を使役する用の首輪。。そうすりゃ信じられるだろ?」

「ハァ? マジで言ってるの? そんな、自分の尊厳を捨てるような取引、死ぬよりツラいわよ?」


「お前だってこの国に命賭けてんだろ? おあいこじゃねェの? そもそも、心配ねェんだよ」

 オレはモネアに首輪を投げ渡す。


社畜どれいなら、からな」

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