第9話 失われた安息の日々!
「同じ騒ぎがあった? 一年くらい前にも?」
夕暮れ、市場の片隅、オレは魔法道具屋の商人に聞き返す。
マンティコアを追いながらの情報収集。その結果、まさかこんな重要な話が聞けるとはな。
「たたた、確かにわたしも聞いたことあります!」
ラナはきりりとした顔つきでゆっくり頷く。
その度にふわりとしたロングヘアが揺れ、甘い匂いがした。
「国王夫妻が行方不明になってしまった、痛ましい事件でしたね……」
「ああ、そうとも」
口髭を撫でつけながら、商人はゆっくりと語る。
「あれも、今みたいに寒い時期でした。城から姫騎士様と国王夫妻が消えたんです! そしてその場には真っ黒な怪物! 誰が見ても、『怪物がみんなを喰っちまった──そう思うでしょうよ」
「ひひ、姫騎士様も? その後、どうなったんですか?」
「あの日、姫騎士様はどこからか帰ってきました。たった一人でです。その時は、妹様との再会を喜んでましたねえ」
「怪物は倒されたのか?」
「いやいや。最後にはその怪物も消えちまったんですよ」
「怪物も消えた?」
「でも、それ以上は知りません。何せ、姫騎士様が口を閉ざしてるんですから。あの日以来、姫騎士様は一睡もせず、国のためがんばってくれています。それこそ、人が変わったみたいに」
それもそうだよな。
親を亡くした事件だ。思い出したいワケがない。
にしても、
怪物が倒されてない?
一年前の怪物=マンティコアなのか?
だとしたら、今回の事件はその延長。
一年の時を経て、マンティコアが再びモネアを連れ去りに来た……!
「ありがとうな、おっちゃん」
オレはお代を置き、傷薬を手に取る。
すると、
「お待ちなさい、二人とも。マンティコアを追うなら、これも持ってくと良い」
商人は陳列された魔法道具の中から、首輪を二つ手に取った。
「わわわ、わたし知ってます! 従僕の首輪──首に巻けば、どんな獣でも従えられるという代物ですよね! でも、こんな高価な物を……!」
「ああ、そうさ。マンティコアは亡き国王様の仇。これであの獣を懲らしめてやってくれ……!」
力強くも悲しいオッサンの表情。
きっと、このオッサンにも何か背負うものがあるんだろうな。
国王の敵討ちに高価な道具を無償でくれるなんて……!
よっぽど強い想いだ。
「その想い、受け取ったぜ」
オレは首輪を受け取り、オッサンと握手を交わす……!
そして、商店から立ち去った!
「ちょっとお客さん、代金がまだだよ!」
「あ、この流れで金取るんスね〜」
オレは渋々ラナの懐をまさぐり、硬貨を──
「ななな、何勝手にわたしのお金使おうとしてるんですか! 『渋々〜』じゃないですよ!」
ラナはオレの腕を掴んだ。
が、オレの
抗えるハズも無い。
「なあ、いいだろ? 全ては、『姫騎士さまを連れ去った獣を倒すため』だ」
「うう〜、それを言われると弱いですケド……」
目を伏せながらされるがままのラナ。
オレは彼女の懐から出した硬貨を商人に支払う。
「流石はオレの大切な
「う〜ん。たぶんですけどその読み間違ってますよね?」
「とりあえず、情報も集めたし、マンティコアを追いかけようぜ」
「ととと、唐突な話題転換ッ……!」
ともかくこれで、大まかな流れは理解したな。
一年前、マンティコアが現れ、モネアたち三人が失踪した。
モネアは戻って来たが、両親は消息不明。
そして、マンティコアも消えた。
以来、モネアは亡き国王に代わり、命を削って生きてきた。
『眠らない姫騎士』として。
なら、あの怪物もどうにかしなきゃ、だよな。
姫騎士さまが安心して眠るためには!
オレはラナの手を引き、街外れの森に向かった。
マンティコアが逃げ込んだと言われている森に。
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