第8話 消えた眠り姫の謎!

「失踪した? 姫騎士さまが?」


 嘘だろ?

 魔王は確かに眠らせた。

 なら、この事件は魔王とは関係ないのか……?


「詳しくはこちらで話します。が、えっと……」

 侍女はオレの背後、綿菓子女を見つめる。


「ああ、この子は──」

 どうすっかな。

 彼女は、魔王を眠らせた証人として同行してもらった。

 けど、姫騎士さまがいないなら、魔王の話どころじゃないよな?


「ついてきてもらって悪いけど、一旦解散にしよう」

 ここで引き止め続けるのも悪いからな。

 住所とか名前とかを教えてもらえれば、また連絡取れるし。

 けれど、


「いいい、いえ! もう少しお供させてください! 姫騎士様には、この仕事をもらった恩があるんです!」

 綿菓子女は意志のこもった表情でオレの手を取った。


「分かった。アンタの名前は?」

「らら、ラナと申します! よろしくお願いします!」

「なかなかご機嫌な名前だな、ラララナちゃん」

「いえ、違ッ……!」

 ラナは困り顔で槍を抱き締める。


「ごめんね。冗談だ」

 オレはラナに手を合わせ、侍女に向き直る。

「とりあえず、姫騎士さまの捜索には、綿菓子女ラナも混ぜてくれ。オレはここの常識に疎いから、彼女がいれば助かる」


「かしこまりました。では、ついて来てください」

 侍女に導かれ、オレは宿屋の廊下を進む。

 転生直後に目覚めた宿屋だ。


「姫騎士様はここで眠っていた──」

 宿屋の扉を開ける侍女。



 その部屋は荒れ果てていた。

 外れた床板。倒れた燭台。ボロボロの毛布。ベッドのマットレスは引き裂かれ、羊毛が散乱している。

 一壁には大きな穴が空き、外の景色が見えてしまっていた。

 そして、


 


「むむむ、惨すぎますッ! 姫騎士様は、強盗に連れ去られたのでしょうか?」

「かもな。ただ、オレの考えだと、おそらく犯人は魔物の類だ」


 ひと目で分かる。

 明らかなモンスターの痕跡。

 これは、まさか──

 

 オレは床に落ちたを拾い上げる。


「まま、マンティコアの体毛です! まさか、わたしたちが魔王城で会った怪物が、姫騎士さまを……?」

 ラナは顔を青ざめさせながら、その場にしゃがみこんだ。


「その怪物が、姫騎士様を食べてしまったと言うのですかッ?」

「その可能性もあるけど──」

 オレはベッドや床を示す。


んだ」


 マンティコアの食性がライオンと同じなら、餌を丸飲みにすることはアリエナイ。

 つまり、


「『姫騎士さまはマンティコアから逃れた』あるいは、『マンティコアが姫騎士さまを連れ去った』とかだよな」

「命があるなら良かったです〜。わたしまだ姫騎士様に恩返しできてないので……!」


「そんな世話になったのか?」

「はい! わたしの家、貧しかったんです。まあ、妹や弟がいっぱいいて楽しい日々でしたけど。ただ、その日を暮らすのも精一杯なくらいで……」


「だから、『仕事をくれた姫騎士さまに恩義がある』ってワケか……」

「はい、その通りです」

「『姫騎士さまがくれた仕事のお陰で、妹や弟にも笑顔が増えた』ってワケか……」

「流石は勇者様、よく分かりますね」


「『恩を返すため、ゆくゆくは親衛隊隊長になって姫騎士さまを守りたい』ってワケか……」

「そ、そこまで分かるのは怖過ぎます〜ッッ!」


 ラナは泣いてしまった。

 感動してるのかな?

「違います! これは怖い時の涙ですッッ!」

 違った。

 怖い時の涙だった。


 ともかく──

「まだ安心できないかもだせ、ラナ」

 オレは再び部屋を見回す。


──この証拠は、んだ」

「たたた、確かにそうですよね! 早く姫騎士様を見つけなきゃ!」


「オレたちは今すぐマンティコアを追う! 後処理は侍女のアンタに任せるぜ」

「さささ、流石は勇者様です! 一緒に姫騎士様を見つけ出しましょう!」

 ラナはキラキラとした目でオレを見つめた。


 よし。

 オレの冒険、第二幕の始まりだぜ!

 壁に空いた大穴に足をかけ、オレは街へと飛び降り──


 ──る前にあることを思い出した。


「すいません侍女さん、お金貸してくれませんか? あと、地図と身分証みたいなのとハンカチとティッシュと──」

「節操無さ過ぎます〜ッッ!」


 ラナは泣きながら、オレの腰にしがみつく。

「勇者様が侍女さんにお金タカっちゃダメです! お金なら後でわたしが貸しますから……!」

「お前にならタカってもいいのッ!? それはそれでおかしくね?」


「や、やっぱダメです!」

「どっち!?」


 まあ、一文無しでも何とかなるよな?

 何はともあれ、


 オレはラナを左肩に抱え、

 壁の大穴から街へ飛び降りた!

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