第7話 眠らない獅子!

 魔王も寝かせて一件落着!


 ありったけの睡眠欲を注いだんだ、当分は目覚めないだろ。

 あとは、宿屋に帰って姫騎士に報告するだけだな!

 ローブを翻し、オレは城を出ようと振り向く。

 すると、


「おおお、お名前を聞かせてくれませんかッ?」

 一人の女兵士がオレに声をかけた。

 空色のロングヘア。ふわふわとウェーブがかった、艶やかな髪。


 綿菓子みたいな女の子だ。

 彼女は柔らかな雰囲気で、けれどすぐ消えてしまいそうな儚さを湛えている。

 女兵士と言うよりは『兵士のコスプレをした女の子』と説明した方が近いかもな。


 けれど、身長はめちゃくちゃ高い。

 背の高さだけなら、酒場の大男と同じくらいか?

 ともかく、

 その子はクソデカ綿菓子女だった。


「オレの名前は……」

 ここで前世の名前を使っても浮くだけだからな。

 この世界用の名前を考えるか、アカウント名でも決めるノリで。

 なら、エナジードリンクに含まれるカフェインと、目覚めた宿屋の名前から取って──


「フェイン──フェイン・レムノスだ。よろしくな」

 オレは綿菓子女の手を取った。

 瞬間──


 頭上から感じる気配。


 綿菓子女を抱え、オレは飛び退く!

 すると、オレたちの立っていた場所にが斬撃を喰らわせた!


「ななな、何ですかあのモンスターは!」


 獣だ。

 でも、このデカさ──ただの獣じゃねェ!

 大型トラックくらいあるよな……?

 オレは拳を構えながら、を観察する。


 獅子の体。蝙蝠の翼。蠍の尾。

 ゲームで敵として出てくる、マンティコアと同じ特徴だ。

 黒と緑の体毛は逆立ち、真っ赤な瞳はこちらを刺すように睨んでいる。


 そもそも、コイツは何なんだ?

 魔王を倒したら終わりじゃないのか?


 コイツ、今にも飛びかかろうと構えてやがる。

 明らかにオレたちをだと認識してんな。

 避けれない速さじゃないが──


 オレは左腕で綿菓子女を抱えている。

 速過ぎる動きは彼女の体が持たないよな。

 つまり、


 短期決戦!

 このでマンティコアを眠らせる!

 その時──


 姿を消すマンティコア。

 オレたちの頭上、

 獣は鋭い爪を振り上げ、襲いかかる!


「わわわ、もう終わりです! 故郷のetc.たち、お姉ちゃんを許してね……」

 号泣しながら両手で祈る綿菓子女。


「大丈夫だ! オレにはがある!」

「さ、流石は勇者様です! 長い旅路の中、心強い武具を手に入れたんですね!」

 刹那──


 マンティコアの斬撃がオレたちに振り下ろされた!

 咄嗟に右手を伸ばし、オレは《それ》を掴む。

 そして、


 オレはマンティコアの攻撃を受けた、

 魔王の棺桶で。

「魔王ガード!」

「そんな勇者様は嫌過ぎますーッッ!」


 すぐさまオレは棺桶を捨て、

 右拳を怪物の腹にブチ込んだ!


喪神之右手オネイロス・ライト


 どんな相手だろうと、寝かせちまえばこっちのもんだ!

 生憎、からな。

 自分の中の睡魔を、オレはマンティコアに注ぎ込む。

 瞬間──


 マンティコアは吹き飛び、魔王城の壁に激突した。

 壁はヒビ割れ、崩れ落ちた瓦礫が怪物に降り注ぐ。

 寸前──


 マンティコアは飛び退き、瓦礫を回避した!


「バカな! オレの能力でだと?」

 オレは怪物と距離を詰め、もう一度拳を──

 刹那──


 マンティコアは大きく羽ばたき、頭上へと舞い上がった。

 その先には天井に空いた大きな穴……!

 コイツ、逃げるつもりか?

 オレの身体能力なら追いつける。

 だが──


 綿菓子女をここに置いてはいけないよな。

 とにかく、街に戻って姫騎士さまに報告しよう。


 民のため、あんな大きなクマを浮かべてたからな。

 オレみたいに、睡眠不足で死んでほしくない。


 けど、魔王が二度寝したって聞けば大丈夫だろ。

 姫騎士さまの過労も和らいでいくハズ。

 オレは、飛び去るマンティコアの影を見送った。

 けれど──



 街に戻ったオレに告げられたのは、


「姫騎士モネアが失踪した」


 という言葉だった。




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