第6話 目覚める魔王を寝かしつけ!

 どどど、どうしてわたしが魔王城の見張りなんて……。


 わたしは槍にしがみつき、部屋の奥を見つめる。


 薄暗い部屋の中、燭台だけがを照らしている。

 置かれていたのは、大きな棺桶。

 眠れる魔王が封印された棺桶だ。


 辺りは暗くって、どこから魔物が出てきてもおかしくないです……。

 こんな場所、命がいくつあっても足りないですよ。

 妹や弟たちの生活費を稼ぐためとはいえ、まさかこんな前線で見張り番だなんて……。


 でも、仕方ないですよね。


 両親のいないあの子たちにとって、わたしが親代わりですから……!

 わたしは槍を握り直し、魔王の眠る棺を睨みつけた!


 でも、よく考えたら大丈夫ですよね〜!

 予言では今日目覚めるらしいですけど、あと少しで次の見張りと交代ですし。

 きっと何とかなりますよね。

「今夜のご飯何にしようかな」

 わたしは棺桶から目を逸らした。

 刹那──


 鳴動する魔王城。

 ヒビが走る柱や天井。 

 わたしの頭上には瓦礫が降り注いだ……!


 あわわ!

 魔王が目覚めちゃったッ?

 しかも、こんな視界を覆い尽くすほどの瓦礫!

 出稼ぎに来た平民風情じゃ、避けらんない!


 ああ、ぺしゃんこになっちゃうんですね、わたしは……!

 わたしが居なくなっても元気で過ごしてね、

 ショーン、ティム、シャーリー、etc.……!

 死ぬ前に、でっかいお肉が食べたかったなあ……。

 瞬間──


 わたしを包む砂埃!

 でも、


 わたしは死んでいなかった!


 何が起こったのッ?

 晴れゆく煙の中、わたしの目の前には人影があった……!


 真っ黒で大きな目の下のクマ。真っ赤に充血した瞳。色が抜けきった真っ白な髪。

 青いローブに身をまとった男、ですね。

 それはさながら、365でもあります。

 ってわたし、何を根拠にそう思ったんだろ。

 ともかく、


 まさかこの人、さっきの瓦礫を払い除けたっていうのッ?

 しかも、わたしを助けるために?

 スゴい! まるで勇者様だ!


「ありがとうございます! 助かりました〜!」

 あれ何でだろ。

 安心のあまり涙が……。

 わたしは涙を拭う。

 けれどその時、


 棺から吹き上がる漆黒の焔……!

 そしてそれは、男を目掛け降り注いだ!


 今度こそ魔王が目覚めたに違いないです……!

 しかも、視界を覆い尽くすほどの真っ黒な炎!

 落ちてくる瓦礫を防ぐだけなら、王国の上位騎士だってできるかも。

 けど、こんな量の炎なんてッ……!

 いくらこの人でも、流石に炎を振り払うなんて不可能です……!

 刹那──


 男の体を爆煙が包んだ!


「勇者様ーッ!」

 鼻腔を侵す肉の焼けるニオイ。

 まさかコレって……。


 視線の先、

 爆煙の向こうには、──


 『こんがりと焼けた骨付き肉』を携えた男が立っている、無傷のまま。


「やっぱ、肉焼くなら魔王の獄炎だよな」

「魔王の獄炎で料理してるゥーッッ!」


 嘘でしょッ?

 炎を振り払うどころか、持ってきた生肉をこの場で焼いたッ?


 この世界は眠ることで、経験が肉体のレベルに反映されます。

 けど、魔王に眠りを奪われて以来、誰も肉体の成長はできないハズ……。

 そんな世界で、どうやってここまでの強さを……?


「お前にも一つやるよ」

 男は骨付き肉をわたしに持たせると、瞬時に棺の傍らへ移動した。


「あなた様は一体……?」

「オレはただの元社畜さ、みんなより少し寝かしつけるのが上手いだけの」

 男はそう言って、

 棺桶に右の拳を叩き込んだ!


「知ってるか? 魔王さま、二度寝はめちゃくちゃ気持ちいいンだぜ?」


 そして、

 魔王の棺は、ピクリとも動かなくなった。

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