第3話 目覚めつつある力!

 狂戦士二人の話が終わる頃のことだった。


「誰か手を貸してくれ!」

 宿屋に入ってきた鎧の男。

 その鎧は血と泥で汚れている。

 そして、彼が肩に担いでたのは、ぐったりした男。

 鎧の男も屈強だが、担がれてる方も筋骨隆々。


 うわ、めちゃくちゃ重そ〜。

 二人とも、格闘技とかアメフトとかやる体格だろ、これは偏見だけど。

 きっと、ここまで運ぶのには苦労したろうな。

 だが、


 一番近い場所にいるのはオレだ。

 困ってるヤツを助けないワケがない。

 (まあ、そのせいで前世で仕事振られまくってたんだが)


「どうしたんです? 大丈夫ですか?」

 オレは駆け寄り、ぐったりした男を支える。

「この男、魔物に呪いをかけられちまってな。眠ったまま起きないんだ」


 呪い?

 しかも一発で動けなくなるほどの。

 絶対ラストダンジョンの難易度だ!


 寝起きのオレじゃ、太刀打ちできないだろ絶対!

 クソ〜、異世界来たからには無双したかったのにな。二度寝したせいで能力も貰い損ねるし散々だ!

 いや、全部自分のせいだが。寝過ごしてごめんな女神さま。


「とりあえず、コイツが借りてた部屋に寝かせてやりたい。手伝ってくれるか?」

「ええ、もちろんです! どの部屋ですか?」

 その時──


 オレは気付いた。

 このぐったりしてる男、


 まるでスポンジとか発泡スチロール。

 これなら、片手でだって持てるぞ。

 一体、どういうことだ?


「ちょっと試しますね、一人で抱えられるか」

 オレは少ししゃがみ、病人の方の男に両手を添える。

 すると、


「オイオイ、無謀だぜ兄ちゃん!」

 病人を運んできた戦士は、呆れたように話す。

「そいつの巨体は、『姫騎士親衛隊・副隊長』である、俺すら運ぶのに苦労したんだぜ?」


 彼と同じく、周りの大男たちも口々に呟いた。


「ギャーッハッハッハ! お前みたいな細身が、『ソイツを持ち上げる』ゥ? 泡を食って二の句が継げないぜェ!」

「オデ、こういう雑魚のとと交じりには、一驚を喫する、ど」


「語彙力強くて煽られてる感じしねェーッッ!!!!」

 叫び声とともに、オレは昏倒する男を持ち上げた。


「分かる言葉で煽れよ! いや、そもそも煽らなくていいんだけどもッ!」


 って、今オレ余裕で持ち上げられたな、この大男。

 すると、


「すげえな、兄ちゃん! まさか軽々持ち上げちまうとは!」

「ギャーッハッハッハ! 先刻は舐めたこと言っちまって、不徳の致すところだぜェ!」

「オデ、相手も知らず青筋を立ててしまい、身の細る思い、だど」

 周りの大男は、オレに賛辞(?)を送った。


「兄ちゃんくらい強いと、『睡眠値レベル』も高ェんだろうなぁ!」


 睡眠値?

 この世界での強さ指標みたいなものか?


「オレ、睡眠値って初めて聞くんですよ。どういうものか教えてもらえませんか?」

「珍しいヤツだな! よし、なら……」

 大男は一本の巻物スクロールを取り出す。


「コイツに片手を当ててみるんだ。例えばオレなら──」

 巻物スクロールの最初のページに触れる大男。

 すると、巻物スクロールは独りでに展開した。

 そして白紙部分に、『10』という光の文字を刻んだ。


睡眠値レベル10──つまり十年分寝たってとこだな」

 大男は展開した巻物スクロールを巻き直す。

「どうだ? 兄ちゃんの数値も測ってみないか?」


 ってことだな!

 これが、この世界での『ステータスオープン』みたいなヤツか!


 でも、どうする?

 生前、直近の平均睡眠時間は三時間程度!

 女神さまにチートパワー貰ってるとして、数値はめちゃくちゃショボいんじゃないか……?


 しかも、それを公衆の面前で公開?

 とんだ羞恥プレイだ!

 さっさと終わらせて、別の話題を振ろう。


「でも兄ちゃん、今は両手が塞がってたか──」

「分かりました」

 オレは抱えていた昏睡男を左の肩に乗せ、空いた右手で巻物スクロールの端に触れた。

 その瞬間──


 巻物はくるくると展開し、長い帯となって宿屋の天井に舞い上がる!

 そして、巻物スクロールの白紙部分には、光る文字で数値が刻まれていった!

「一万、十万、百万──オイオイ兄ちゃん、一体いくつまで伸びるんだよ!」


「えっと……『睡眠値レベル13,700,000,007』らしいですね、どうやら」


「13,700,000,007!? 聞いたことないぞ、そんな数値!」

 どよめく大男たち。

 オレはただそれを、苦笑いで誤魔化すことしかできなかった。


 何だこの睡眠時間。

 全く心当たりねェ!

 もしかするとアレか?

 女神さまの領域で爆睡したのが関係あるのか?


 数値の算出法が年換算だとしたら……、

 おそらく、百三十七億年くらい眠ってたってことか……?

 それは寝過ぎだろオレ!

 宇宙創成するわ!


 思い返してみれば、今は社畜時代より体が軽い!

 とにかく、

 なんかよく分かんねェけど、ってことか!


 これなら、行けるかもしれない!

 いきなりのラスボス戦だって!

 その時──


「一体、何の騒ぎかしら?」


 階段の上から響く声。

 それは、宮廷で奏でられるフルートのよう。しなやかで美しいが、芯のある強い声だった。


「おお、姫騎士様!」

「モネア様!」

 周りの大男たちが見上げた先──

 階段の上には、一人の少女。

 黒いドレスのような鎧を纏った、気の強そうな少女が立っていた。

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